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2025-12-30

辻陽太がすでに抱く危機感と、対KONOSUKE TAKESHITAに見る“対AEW”。竹下と「意見は交わらない」と語る理由は…【週刊プロレス】

IWGP GLOBALヘビー王者の辻

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棚橋弘至が引退する新日本1・4東京ドーム大会が迫ってきているが、同大会でIWGP GLOBALヘビー級王者・辻陽太は、IWGP世界ヘビー級王者・KONOSUKE TAKESHITA(竹下幸之介)とのダブルタイトルマッチに臨む。すでにチケットは増席分も含め完売と、新日本ではアントニオ猪木さんの引退以来となる“ドームフルハウス”が現実となる興行。これまで明確な主張として辻が掲げてきたのは「IWGPヘビー復活」と「IWGPの価値を取り戻す」だが、今回ドームに向け対竹下を中心に話を聞くと、今後への危機感も含め過激な言葉を連発して覚悟を語った。

 まずは、試合順について。結果的に棚橋がオカダ・カズチカと闘う引退試合がメイン、IWGP2冠戦はセミファイナルの位置づけとなった。辻はIWGP最高峰の王座戦は常にメインイベントであるべきと一貫して主張しているが…。

「まあ、しょうがないですよね。これは棚橋弘至の大会なのでね。俺は常にIWGPがメインでなきゃいけないと思っていますけど、まあ前哨戦で竹下は来なかったし、ずっと引退ロードで盛り上げている棚橋弘至に比べてIWGPダブルタイトルは、圧倒的に盛り上がりで負けましたから。いまのIWGPはその位置付けなのでしょう。もちろん自分の責任も含めて。だからこそ余計にIWGPの価値を俺の手で取り戻さなければいけないと思っています」

 いきなりチクリと語った辻だが、11・2岐阜の結果を受けて竹下と辻の2冠戦が決まって以降、各種メディアでの“舌戦”こそあれど、リングで2人が対峙する瞬間がなかったのは事実。ドームに向けた闘いがリング上においては一切ないまま、両者は“一発勝負”することになる。

「今後の新日本プロレスを盛り上げるという意味では落第ですかね。東京ドームという1年の一番大きい大会なのに、その前哨戦をまったく人々に見せることができない。これは新日本プロレスと一緒に考えなきゃいけない問題ですね。『対戦相手がいなくても何かほかにできることもあったんじゃない?』と、次同じことが起きないように考えていく必要がありますよ。こうなってしまった以上は試合で魅せればいい、魅せるしかないですね。俺は反AEW派ですけど、東京ドームもじっさいにはオカダ・カズチカの登場があってチケットが伸びたことは間違いない。裏を返せば、新日本に引退試合の相手を務めるに相応しいレスラーがいないと判断された。悔しいですよね。棚橋引退という、東京ドームではこれからの新日本プロレスを見せていかないといけないですから」

 つまり辻は“チケットが売れているからいい”という考えではまったくない。すでに“その後に訪れる世界”を見据えながら、こう危機感をあらわにする。

「来年のイッテンヨン以降は棚橋弘至がいなくなる。そこはどうしても怖い部分でもありますよね。『レスラーだったら“俺が新日本を引っ張っていく”“俺がいるから大丈夫”と言え』と思われるかもしれない。それは上村(優也)が言うべき言葉であって、俺は違う。物事には因果関係があって、上がれば下がる、下がれば上がるから。今回はドーム満員はFXの経済指標のようなものだと思っています。これだけ東京ドームに入ったとしても、みんな棚橋弘至を見に来ているわけですから。その棚橋弘至がいなくなる。普通に考えればわかりますよね。ドームに約5万人が入って『いまの新日本の勢いがすごい』と思うレスラーがいたら注意します。そこの現実は受け入れていかないといけない。もちろんフタを開けてみたら勢いに乗った、ということもあるかもしれない。そうなることを願いたいですけど、そこに関して俺は(アメフトでは)クォーターバックだったので、『ダメだった時のプランもしっかりと考えておかないといけない』という人間。そこはある意味の覚悟を持っていきたいなと思います。しかしながらピンチは最大のチャンスでもある。いつでもアクセルをかけられるようにしておかないと!」

 話を戻すと、辻は対竹下に“対AEW”もオーバーラップさせている。辻の向こう側には棚橋が見え、竹下の向こう側にはケニー・オメガが見える。2019年の1・4ドーム、トリは棚橋vsケニーのIWGPヘビー戦。イデオロギー闘争を展開しながら迎えた決戦だった。互いのプロレススタイルが明確に違った闘いで、それは今回の竹下vs辻にも言える。辻は、こう語った。

「(竹下は)新日本所属かもしれないけど、大半の人から見たらAEWの選手。新日本の選手かもしれないけど、俺にとっては“AEWの選手”なので、対AEWという意識は相当あります。対抗戦のつもりで臨む? はい。竹下は一つひとつの技がムーブが大きいものが多いと思うので、俺は逆に細かく積み重ねていきたいかなと思う。ちょっと、狙いを絞って。あえて、いつかの棚橋さんの言葉を借りるなら“品のあるプロレス”をしたいと思います」

 また、辻と竹下には明確な考え方の違いがある。DDT所属のままAEWに主戦場を求め、今年の頭からは新日本も加えて3団体所属となった竹下。竹下は「どちらがいい悪いの話ではなく」と前置きしたうえで“DDTという出自”を念頭に、こう語っていた。

「(新日本とは)団体の規模も違うし、世間からの見られ方も違うし。僕はプロレスラーとしてエリート街道を走っていたように見られるかもしれないけど、やっぱり雑草魂というのを持ってやっていた。辻選手は新日本で、日本のプロレスで一番の団体。“新日本が”ナンバーワンの世界を作りたい。僕は、僕が一番になりたい。そうすることで、DDTを上の位置に持っていけるという考え方だった。そこが一番違うなと思いますね」

 要するに竹下は自分自身がスケール感を持って突き抜けることで、新日本も上げていきたいという考え方。その視点から竹下は辻に、個人として“オマエはどうなりたいのか?”と問いかけていた。それに対して辻は、こう言い返す。

「3団体所属はすごいし、俺にはできることじゃない。彼にしかできないことだと思うし、彼がすごいのは大前提。いま現状俺が思っているのは“竹下幸之介、考えがクソだせえぞ”と。記者会見で(巡業に出ないのは)新日本からオファーがないだけだ、って…3団体所属しているのは彼であって、そういう契約も含めて彼が求めたものじゃないですか。人のせいにすんなって。どうなりたいのかと言われたけど、竹下は“竹下幸之介”というレスラーに価値がある、と。でも俺は、辻陽太という人間に価値があるのではなく“新日本プロレスの辻陽太”だから価値があると思っているんですよ。だから意見は交わらないですよね。

『新日本プロレスどうこうじゃなくて、オマエはどうなりてえんだ?』

この問いを続けるならプロレスという枠を超えて人としての価値で勝負しますか? 最後朽ち果てる時まで気が抜けませんね(笑)。彼のプロレスは面白いし、考えていることも別に否定はしない。ただ新日本プロレスの所属として、チャンピオンとして自分の選択に責任を持つべきですよね。そうしないとただの自己満足になってしまいますから。もう彼も散々言われてきてるだろうと思いますけど、竹下がやろうとしてることはそういうことですよね? あえて言わせてもらう。アンタはスケールのデカいレスラーでいろよってね」

 個人として上がることで、新日本も上昇させようと考える竹下に対し、ある意味で辻は新日本と“一体化”して、団体を上昇させようとしている。引退後の棚橋社長に求めることを聞いた時も辻は、具体的な改善ポイントを挙げながら“真の世界一の団体”になるための道筋を模索しているようだった。

 そこには、生え抜きとそうではない者の違いや闘いもきっとある。ただ、いまともに新日本に所属する2人として、棚橋引退のドームでIWGPを懸けて闘う意味を、双方が双方の思惑のもと、極めて重大な覚悟を持って理解していると、両方を取材した人間として“共通点”も感じている。

 最後に辻は、2026年のテーマをあらためて明確に述べた。

「俺がしなきゃいけないことは“IWGPの価値を取り戻す”ですよね。IWGPヘビーの復活から始まり、その価値をいかに守ることができるか。それは試合内容とかではなく“IWGPの扱い”を守っていかないといけない。IWGPはチャンピオンを削っていくベルトだと思ってます。いろんな意味で。でもそれがチャンピオンとしての役目であるかなと思います。IWGPを守ること、それがすなわち団体を守ることだと思うんですよ。それはAEWとの闘いでもあるし、会社との闘いでもあるし、IWGP実行委員会という雲のような存在との闘いでもあると思う。そこからしっかりIWGPを守っていかないといけないと思います」

 辻は、イッテンヨン以降の新日本で“まずやるべきこと”をそう話した。当然、ドームで勝って自身の描く“IWGP復権”を果たすつもりでいる。

<週刊プロレス・奈良知之>

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