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2020-03-01

【アメフト】日本代表の「ヤングガンズ」 QB高木と石井が切り開くパスオフェンス

 現地時間3月1日午後7時(日本時間2日午前10時)、米育成プロリーグ「The Spring League(TSL)」選抜チームと対戦するアメリカンフットボール日本代表(藤田智ヘッドコーチ)。攻撃の軸となるQBは、27歳の高木翼 と26歳の石井僚介の2人が担う。ライスボウルMVPの高木と、昨春フットボールに復帰の石井では、実績ではだいぶ差があるが、ともにサイズと身体能力に恵まれたパサーだ。新しいジャパンの「ヤングガンズ」は、強力な米国のパスラッシュディフェンスにどう挑むのか。【聞き手・構成 /小座野容斉】

これは自分のスタートライン
QB #18高木 翼 たかぎ つばさ(富士通)
183cm92kg27歳=慶應義塾大学

「日本代表のQB」が目標だった高木=撮影:小座野容斉

(今の状態は)

プレーブックは日本の練習で完全に頭の中に入った。この一週間で、イメージトレーニングでアレンジを加えた。ディフェンスの守り方、出方によってプレーを変える。それをどうフィールドで体現するのか。

(日本代表QBとは)

「世代別含めて、自分にとって初めての代表。自分は、ずっと日本代表に選ばれて、アメリカと戦うということを目標にしてきた。代表で活躍するために、チームの移籍、転職と人生における決断をいっぱいしてきた。たとえ控えQBであっても、意識を高く持って一日一日を大事にしてきた。モチベーションは凄く高い。
 
 学生時代に、『生活のすべてをかける』と決めたフットボールで、国を代表するというのは特別なこと。自分にとって人生の目標の一つだった。

 (U19代表では選考に漏れた)

「隔年開催のU19では、生まれ年の関係で、自分と同学年の早生まれが選ばれた。自分は対象になれなかった。2014年の大学世界選手権は、4年生で受けたが、落ちた。立命館を卒業した荒木(裕一朗・オービック)さん、関大の岸村(恭吾)さん、京大の小原(祐也)さんが代表に選ばれた」

(悔しさはあった)

「めちゃめちゃ悔しかった。自分の大学でも日本一を目指していたが、国を背負って戦うのは特別なことだから」

(2015年の世界選手権時は、社会人1年目)

「銀行で研修の真っ最中、それどころではなかった」

(ライスボウルMVPにも輝いたが、自分の課題は)

「オービック、パナソニックという本当に強いチームと戦った中で秋シーズンにもらった課題は明確。それは、ディフェンスのプレッシャーの中でどうプレーするか。ディフェンスのリード(読み)を早くして、ドロップバックを早くして、タイミングよく正確に投げる。さらにどうプレーをコーディネートするかの判断力。そこがアメリカ人QBとの一番の差だと思っている」
「ブリッツが入った。一枚漏れてきた。それが届く前にどう対応するのか。どうプレーを成立させるのか」

(アメリカのフットボールは、ディフェンスはQBを狙いに来る)

「だから、本当にリリースを早くできるか。いかにネガティブなプレーであるQBサックや、ターンオーバーをなくすかというのが大前提。試合を作らなければならないので。だからと言って臆して、恐怖をもってプレーするのは絶対にダメ。そこは上手く自分のメンタルをコントロールしたい。場面によってはサックされて下がることもありうる。そこで無理をしてファンブルやインターセプトされるのが一番よくない」

 (昨年秋にエースQBの負傷で先発昇格、ほぼ同タイミングで日本代表招集発表。ここへ来ていろいろな歯車が急にかみ合い始めた)

「本当にそういうことです。自分のアメフト人生は今始まった、という感覚。なので、ライスボウルMVPも、この代表もゴールではない。これは自分のスタートライン」

ゴムで強度をつけながらドロップバックの練習を繰り返すQB高木=撮影:小座野容斉

ボックスを出てからのパスに自信
QB #8 石井 僚介 いしい りょうすけ(LIXIL)
178cm89kg26歳=神戸学院大学

DLに追いかけられながらパスを決められるのが石井の強みだ=撮影:小座野容斉

(秋シーズンはほぼ出場無し。代表に選ばれるとは思っていなかったのでは)

「そういう意味では、自分は今回の代表の中で一番実績はない。ただ、ディアーズで加藤(翔平)さんの下で、1シーズン学ぶことができた。聞けばどんな質問にも答えてくれた。だから、今回の代表レシーバーとのタイミング、QBとしてのタイミングはできてきているかなと思う。そこは手ごたえを感じている」

(15分クオーターなので、出番が回ってくる可能性が高い)

「自分の強みは肩の強さ。ディープに投げ込むボールだったり。あとは、左右に動きながらボックス(OLに守られているエリア)を出て投げること。これは大学のときから自分の武器だった。今回、アメリカ人のDLが相手で、パスラッシュはハードになる。(高木)翼さんもどちらかと言えばポケットパサー。自分は、ブレークしたところからパスを決めるのには自信があるので、そういうところでチャンスが来ると思う」
「大学のときから、それほどOLが強くはなかった。試合だけでなく、チーム練習の時でも、ラッシュが漏れてくるというのは間々あったこと。そこで反復して演習できた。自分の気持ちの中でも、ボックスを出てからが勝負だと思っている。ボックスから出たときに、(パスプロテクションが無くなるという)ネガティブなイメージは、僕にはない。ディフェンスのパスカバーもゾーンからマンツーマンに変わる。空くところが出てくる。決められる可能性がむしろ増える」

(NFLでもそういうQBが増えている)

「肩の強さもある程度ないと、横に走りながらライナーのパスを決められない。そこは自信を持って投げ込める」

(こんなに豪華なレシーバー陣でプレーする経験はなかなか得られない)

「QBとしては凄くやりやすい。代表に参加して感じたのは、トップレシーバーのひとりひとりが、こう抜きたいとかこう走りたいという意見を持っている。自分に合わないプレーを、言われるがままにやって決まらないというのではなく、『自分はこう走るからここに投げてくれ』とか『こういうボールをくれ』とすごく言われる。ディアーズに帰った時に、若いレシーバーにそういう部分も根付かせたい」
「単に走る速さとか身体能力だけなら、多分他にもいっぱいいるのだと思う。ただ代表にきているレシーバーは技術的な自信やフットボールIQの高さを兼ね備えているのだなというのは、すごく感じている」
「近江主将、宜本副将のように、レシーバーであれだけキャプテンシーを持っていて、フィールドの中でも外でも引っ張ってもらうというのは、大学のときからあまり経験できなかった。これは凄くやりやすいなと感じる」

(代表のQBとして得たいものは)

「大学も下のリーグで、昨年の秋もほとんど出番がなかった、実績のなかった自分が日本代表の座に選ばれた。最初ここに来た時に、選ばれた嬉しさが勝っている自分がいたのだけれど、他の選手はみな、そこは当たり前で、『アメリカに勝つ』ということにフォーカスしている。そこは自分も変わらなければいけないと思った」
「米国人QBが増えたけれど、ここでしっかり力をつけて結果を出して、日本人QBでもできるんだぞ。ということを、チームにも持ち帰ることができたらと思っている」

  ◇

 石井僚介は、2月29日、婚姻届けを提出したという。QBとしてだけでなく、フィールドの外でも新たな責任を背負うことになる。

2月29日に婚姻届けを出した石井を祝福する、QBレシーバーユニット=米テキサス州で、撮影:小座野容斉

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