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2026-03-22

【相撲編集部が選ぶ春場所千秋楽の一番】藤ノ川が上位初挑戦場所を勝ち越し。初の技能賞も獲得

ヒジを曲げて王鵬に極めることを許さず、最後は掬い投げで倒した藤ノ川。この勝利で勝ち越しと技能賞を手にした

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藤ノ川(掬い投げ)王鵬

「気合が入りますね。嫌いじゃないので」

7勝7敗で、勝てば勝ち越しと三賞がかかる千秋楽を迎えた心境を聞かれたときの答えが、いかにもガッツマンのこの人らしい。
 
藤ノ川が、その気合の入った一番で王鵬を掬い投げで倒し、初の技能賞を手にした。
 
今場所は3日目大の里、4日目豊昇龍と横綱を連破しているので、あるいは勝ち越せば殊勲賞か? とも思われたが、三賞選考委員会で推されたのは技能賞だった。
 
そしてこの日は、それにふさわしいうまい相撲で、賞をつかんだ。立ち合い、外からかかえに来る王鵬に、スパッと二本入りモロ差し。ただここでモタモタするようだと、パワーのある王鵬に極められる恐れがある。王鵬は外から抱えて極める形を目指しながら圧力を掛けてくるが、藤ノ川はヒジを伸ばさず、何とか曲げる形で耐え、土俵際に追い詰められながらも、わずかに残った空間で左に回り、掬い投げで大きな王鵬を投げ飛ばした。
 
本人は「(自分の相撲が)技能相撲とは思わないけど」というが、やはりこの小さな体で幕内上位で勝っていくのは技能がなければできないことだ。

体の小さい藤ノ川とすれば、どんな力士に対しても、下にもぐってしまうか、逆に離れて動きの中でヒラリとかわすか、そして組む形になるときでも、相手に廻しを与えたり、極められたりしない距離を保つ、ということが大事になるが、藤ノ川は相撲の流れの中で、その時、その時で最適な距離を取るのが実にうまい。

例えば大の里戦は右ノド輪で距離を取り、反撃に来るところをヒラリと引き落とし、豊昇龍戦は接近戦に近くなったが、左ハズで相手に投げの得意な右の廻しはつかませず、機をとらえての叩き込み、そして密着の形になったこの日はヒジを使って極めさせず、という具合だ。それらの臨機応変な動きを支えるスピードも、見逃せないところだろう。

上位初挑戦の東前頭2枚目で見事な勝ち越し。空き枠の関係で、来場所の三役はギリギリ届かなそうだが、「そこは焦らなくて、なれたらなれたでいい」と藤ノ川。このあとも三役目指して、稽古で今の動きをキープし、上位で暴れ回って、長く人気力士として活躍してほしいもの。体が小さいので、ケガにだけは気をつけてほしいが、それを防ぐためにも、スピードの維持は大事になってくるだろう。

三役以上に目を移せば、この日は結びで豊昇龍が7勝7敗の安青錦に厳しさを見せつけ、掛け投げで対安青錦初勝利。安青錦は綱取り一転、来場所はカド番で迎えることになった。

優勝を決めている霧島は、この日も敗れたが、大関復帰に向けてはこれは特に障壁にならず、復帰の方向に。「(大関に)戻ることが目標じゃない。さらに先がある」と師匠・音羽山親方(元横綱鶴竜)が言うとおり、今場所見せた強さが続けばチャンスはある。

4月には30歳になる。本人が「まだまだ若いので」と言っているところは頼もしいが、他の横綱・大関陣より少し年上なのも事実なので、ここは時間との戦いになる。これは安青錦にも言えるが、上がるチャンスが大きいのは、横綱2人が今一つ安定しないまさに今。勝負のときはけっこう近いはずだ。

さて来場所。番付は3大関になる。復帰の霧島はその勢いで勝ち進めるか、カド番から再出発の安青錦はどうなるか、琴櫻も終盤に強さを見せ、8場所ぶりの二ケタに乗せてきた。そして横綱陣。横綱昇進後初Vがまたもならなかった豊昇龍も燃えてこようし、大の里の回復具合も注目される。

綱取りを目指した安青錦が負け越したことでもわかるとおり、今の上位陣の力は紙一重で、まさに一寸先は闇。果たして両横綱が抜け出して安定の時代を築いていくのか、それとも群雄割拠が続くのか。これからもしばらくは、先の読めない場所が続きそうだ。

文=藤本泰祐

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