第1戦は6ピリ、103分54秒の死闘に。「延長に入ってからのほうが集中できた」アイスホッケーの「アジアリーグ・プレーオフ2025-2026」が終わった。優勝は、レッドイーグルス北海道。2021年にクラブが発足して初めての戴冠であり、旧・王子イーグルス以来、14シーズンぶりの優勝だった。3位はH.C.栃木日光アイスバックス。前身の古河電工アイスホッケー部の創部100周年を迎えた今季、プレーオフ・セミファイナルでは、昨シーズンまで3連覇中のHLアニャンを相手に3試合連続の延長戦を戦い、1勝2敗で敗れている。入団3年目、21歳のGK・大塚一佐(おおつか・いっさ)選手に、プレーオフ・セミファイナル、そして今季の戦いについて振り返ってもらった。
――プレーオフ・セミファイナルが終わり、一時、戦いから解放されました。今の心境は、どのようなものでしょうか。
大塚 アジアリーグでは、全日本選手権とはまた違う「悔しさ」が残ったシーズンでした。チームを勝たせられなかったのは残念ですけど、あのとき自分ができる最低限の仕事はできたんじゃないか。プレーオフが終わって、しばらくは「やり切った」気持ちでいたんですが、試合の映像を見返すたびに、「もっとできたんじゃないか」という気持ちになっているんです。
――プレーオフが始まる前、藤澤悌史(ふじさわ・よしふみ)監督から言われたことは何でしたか。
大塚 3月19日の木曜に第1戦があったのですが、17日の火曜日に「全部アタマから行くから」と言われました。チームにとって大事な試合だし、フクさん(GK・福藤豊、ふくふじ・ゆたか)も調子自体はよかったんです。そういう状況の中で、僕に「行くぞ」と言ってくれた。もう、やるしかない。そう思いました。正直に言うと、(昨年の)12月から調子は下がり気味だったんですが。
――敵地で迎えたプレーオフ・セミファイナル。第1戦の2ピリまで、0-1でアニャンがリードしています。3ピリの立ち上がり、40分に2失点目。13分に喫した1失点目を含めて、結果的に複数選手がスクリーンに入っての失点でした。
大塚 もう1点もやってはいけない場面だったのに、3ピリ早い段階で2失点目。正直、気持ち的には「折れかけていた」んです。フェイスオフからの失点で、自分でもあっけない展開だった。ただ、(40分という)早い段階での失点だったので、気持ちを切り替えていきました。
――47分にFW清水怜選手がスコアして1-2。しかし、そのまま時間が経過していきます。
大塚 ただ、あの試合はどういうわけか「このまま行ったら負ける」という気持ちにはならなかったんです。最後(58分)にペナルティをもらって、絶対に入ると思っていました(FW伊藤俊之選手が同点のスコア)。
――2-2のまま、長い延長戦に入ります。決着がついたのは、6ピリの103分54秒。23時半を迎えて「もうすぐ日付が変わる」と見ている人が心配する中、アニャンのFW・榛澤力選手が右レーンからスコアします。
大塚 不思議な話ですけど、延長に入ってからのほうが僕は集中できたんです。3ピリに入るまで調子がよくなかったので、試合に入り切れていなかった。オーバータイムに入って、これで一気にギアが上がったといいますか。自分が「点を取られる」気がしなかった。逆に、入る気もしなかったのですが(笑)。「何ピリやっても自分は大丈夫」という気持ちでやっていました。(榛澤選手の)失点を振り返ってみても「止めれる」シーンでした。
――レギュラーリーグなら延長に入った時点で最低でも勝ち点が「1」入っているはずですが、プレーオフで残る結果は「勝ち」か「負け」です。
大塚 試合の意味合いが全然、違いました。長い時間で、みんなして我慢してきたので、ショックは大きかったんじゃないかと思います。ただ、鈴木健斗(すずき・けんと。FW・キャプテン)さんを中心に、控え室では「切り替えようぜ」と前向きな言葉しかなかった。だから必要以上に落ち込むことはありませんでした。むしろ、「ここまでよく頑張ったでしょ」という気持ちで、リンクを後にできたと思います。
今季の目標は「試合に出て、バックスを勝たせること」。全日本選手権は準優勝、アジアリーグでは3位だったプレーオフでアニャンは全然、違っていた。「追い越せそうで、追い越せなかったです」――第1戦が終わって、翌日の3月20日の過ごし方はどうだったのでしょう。
大塚 金曜日は練習が中止になったんです。最初の予定では、午前中から昼くらいに練習が予定されていたんですが。僕は10時くらいまで寝て、お昼を食べて、ホテルでゆっくり過ごしました。前日、ホテルに戻ったときから気持ちは完全に切り替わっていましたよ。
――開けて3月21日の第2戦。バックスは2ピリまでに1-2と、またもリードを許す格好になります。
大塚 今日こそ、先制点を取らなきゃいけない。リードして試合を進めないといけない。それを意識して、みんな試合に入っていたはずなんです。そんな中で、僕が2点を奪われてしまった。試合自体はウチが押していたし、自分がきちんと守っていさえすれば…と思っていたんですが。最後に味方が追い付いてくれて(59分に鈴木健がスコア)、これには感謝しかないです。
――2-2の同点で、2日続けての延長戦に入りました。71分、鈴木健選手が相手の3人にプレッシャーを与え、なおかつゴール前にウォークして決勝の3点目を上げました。
大塚 うれしかったです。だけど、チームを自分が勝たせられたわけではなかった。これで1勝1敗、(第3戦が行われる)日曜日はやってやるという気持ちでいました。
――最終日の3月22日、第3戦。バックスは2ピリ、PPの21分にDF相馬秀斗(そうま・しゅうと)選手がスコアして、このプレーオフで初めて先制します。
大塚 これは、勝てると思いました。自分は「追われている」プレーのほうがやりやすいので。
――しかし、60分を終えて2-2。3試合続けての延長になりました。
大塚 これがセミファイナル最後の試合で、勝つか、負けるか、シンプルな戦いでした。ただ、やっぱり疲労が来ていましたね。僕を含めて、みんなキツかったと思います。
――バックスは延長の72分にPKとなって、73分、アニャンは2人対1人の形をつくりました。バックスのDFは捨て身のスライディング、しかしゴール正面のFWシン・サンフンにパスが渡り、3点目を決められました。
大塚 その瞬間は「相手のコースがよかった」と思いました。まあ仕方がない、と。でも後でビデオを見返してみたら、「あと、もう少し腕を上げていたら」と思う失点だったんです。このプレーは、個人的に課題にしていたところで、試合が終わって、しばらくたってからそう思いました。
――戦いを終えたバックスの選手は、控え室ではどんな顔をしていたのでしょう。
大塚 みんな、言葉が出ないというか…。ただ、下を向いている選手もいれば、やるだけのことはやったという選手もいたんです。「ここまでやった自分たちを褒めてあげよう」みたいな…。悔しさはみんな、一緒だったと思います。
――アニャンの選手のプレーは、シーズン中とは何か違いがありましたか。
大塚 全然、違っていたと思います。レギュラーリーグではなかったような、「追い越せそうで追い越せない」部分があった。プレーオフに入ってからの試合運び、選手1人1人の意識の違い。それが全然、違っていたんじゃないかという気が個人的にはするんです。
――なにしろ、アジアリーグを3連覇しているチームですから、経験則、経験値がありますよね。
大塚 アニャンは特に守備が堅かったです。「入る気がしなかった」というか。バックスもチャンス自体はあったのですが、それでもことごとく止められていた。焦りが出てしまっていたし、いまひとつ波に乗れなかったのではないかと思います。
――大塚選手が、今回のプレーオフで学んだことは何だったのでしょう。
大塚 一番は集中力です。その試合に、どれだけ入り込めるか。完璧じゃないかもしれないですけど、完璧に近い状態で試合に出ないと、ちょっとの差で最後に負けてしまう。レギュラーシーズンではごまかせていたものが、プレーオフでは通用しない。そのことを一番、感じました。
現時点ではバックスで来季もプレーを続ける可能性が高い。その前に、この春はナショナルチームでの活躍が期待される昨年12月の全日本・決勝での敗戦。「あれで自信をなくしてしまった」――今季、ナショナルチームのプログラムは残っていますが、クラブとしての活動は、これでいったん終了になります。今、あらためて思っていることは何でしょう。
大塚 勝ちたかったです。僕は、ファイナルにレッドイーグルスが「来る」と思っていたんです。そこで絶対に「全日本の借り」を返したかった。あそこを倒してアジアリーグの優勝を決めたかったし、その気持ちが、全日本を終わってから心にありました。レギュラーリーグで1位になりたかったというのもあるんですけど、現実は2位か3位を争っていて…。2位通過だったら霧降でプレーオフができたわけで、でも2月のフリーブレイズ戦で連敗して、結果的には3位になってしまった。そこには悔いが残ります。
――悔しさを克服するカギは、何だと思っていますか。
大塚 一番は「メンタル」なんじゃないかと思います。「勝ちたい」気持ちはもちろんあるんですけど、それを前面に出せていなかった。僕の場合、PS(戦)が多かったんですが、相手に負けたというより、自分自身に負けてしまった。プレッシャーがかかる中で「どうしよう」と思う場面も、正直ありました。練習の差、自信の差。それが出てしまったんじゃないかと思います。
――昨季、20歳のシーズンでリーグのベストGKに選ばれた、その実績を持っていたとしても…でしょうか。
大塚 いえ、僕に自信はなかったです。12月の全日本の決勝で(レッドイーグルスに)PSで負けてしまって、そこから、その試合の記憶が引っかかってしまった。「あれを乗り越えなきゃいけない」と思い続けてやってきて、自分の中で「縮こまっちゃった」じゃないですけど、今まで通りやればよかったのに、自信をなくしちゃったんじゃないのかなって。
――全日本選手権の決勝では、3ピリの59分41秒までバックスは3-2でリードしていて、延長、PS戦の末に敗れてしまった。大塚選手にとって、この経験はかくも大きかった、と。
大塚 だって残り19秒だったわけじゃないですか。自分では「もう、勝てる」と思っていたわけです。気持ち的に「折られた」というか、あのときの記憶は今でも思い出しますよ。あのときPKが2分くらいあって、全員で頑張って、最後に1回(Dゾーンの外に)、出して終わるはずだったのに、失点してしまった。あそこまで粘ったからこそ、大きな失点だったなって。
――冒頭で「12月から調子は下がり気味だった」という言葉がありましたが、それは全日本選手権での敗戦が尾を引いていたのでしょうか。
大塚 正直、引きずりました。自分の中でやり返したい気持ちはあって、でも1月の札幌では連敗してしまった。だからプレーオフまで頑張ってきたんです。ファイナルであそこと対戦して、今度は勝ちたかった。そこに行くまでに負けてしまったのが、本当に悔しいです。「あそこに勝つのは僕たちしかいない」。それを証明したかったですし、レギュラーリーグの成績で負け越してはいましたが、どの試合も「いい勝負」はできていましたから。
――高校1年のインターハイで優勝して以来、もしかして年代トップの大会で、大塚選手は優勝経験がない…。
大塚 はい、していないです。昨シーズンも、全日本の決勝とジャパンカップは、ゴーリーはフクさんでしたから。大事な試合で、いつも僕は負けている。大事なところで勝てないキーパーなんじゃないか…。そう思い始めているんです。大一番に弱いところは高校生の時から感じていましたし、どうにかしてやろうという気持ちは持っているんですが。悔しい気持ちを味わってきたぶん、アジアリーグで3年目の今季は「やってやる」気持ちでいて。でもそれが全日本の決勝と、今回のプレーオフだったので、「またか」みたいな気持ちになっています。
――まだ早いかもしれませんが、来季に向けて考えていることはありますか。
大塚 もともと海外でプレーしたい希望があるんです。もちろんバックスでやり残したことはたくさんあるし、でもやっぱり、自分の夢というか、海外でというのはずっとあるんですね。ただ、現実に海外のチームからのオファーがあるか、ないかというのもあるわけで、今はバックスに残って、来シーズンはやり返したいという気持ちのほうが大きいです。昨シーズン、アジアリーグの個人賞をいただきましたけど、今年は目指していなかった。それよりも「勝ちたい」気持ちのほうが強かったんです。数字のことよりも、僕が試合に出て、優勝したい気持ちのほうが強かった。今回、失敗したぶん強くなれると思うんで、今回の経験を最後に結びつけないといけない。そう思っています。
大塚一佐 おおつか・いっさH.C.栃木日光アイスバックス・GK、背番号「90」。2004年9月3日生まれ。ブラジル・サンパウロ出身。ブラジルでは4歳まで過ごし、その後、栃木県日光市へ移住。今市小2年でFWとしてアイスホッケーを始め、3年生でGKに転向する。日光東中では、同学年のGK田村壱桜(たむら・いっさ、日光明峰高-東洋大)、1学年下の工藤授(くどう・さずく、駒大苫小牧高-明治大)の控えに回り、GKとしては、3年間で1度も全国中学校大会への出場はなかった(中3ではコロナで大会自体が中止)。高校は釧路の武修館高に進学し、1年の時に正GKとしてインターハイ日本一に。卒業後はアイスバックスに入団し、2年目の昨季、そして今季と、2年続けてアジアリーグの「ベストGK」を受賞している。「今年のオフは、5日間とか1週間とか、国内旅行に行ってみたいんです。温泉が好きなんで、九州なんかいいですよね」。1年前は「彼女募集中」と言っていたのだが、今年は…。