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2020-06-16

【私の“奇跡の一枚” 連載74】 「天覧相撲」私だけのちょっといい話

初場所は、ほかの場所とどこか違った華やかさや新鮮さにあふれ、大好きな場所だ。それに、ひと味加えるのが天皇、皇后両陛下をお迎えする天覧相撲で、当日のなんとも言えない緊張感がまた、いい。

※写真上=蔵前国技館に行幸、2階貴賓席で場内観衆の歓呼にお応えになる昭和天皇陛下。ご説明役を務める春日野理事長(元横綱栃錦)にとっても、緊張しまくりつつも輝かしい瞬間だった
写真:月刊相撲

 長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。
 相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。
 本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。 

オフレコのはずが…

 今年、その初場所の天覧相撲が中止になった。昨年11月の日馬富士の暴行事件に始まったゴタゴタが原因だそうで、辞退を申し出た八角理事長(元横綱北勝海)は、

「暴力問題に加えて、新たな不祥事を起こしてしまったことから、(1月7日から始まる)今週初め、1月場所の行幸啓をご辞退申し上げたいとお伝えしました。まことに申し訳なく、お詫び申し上げます」

 とコメントしている。まさに断腸の思いだったに違いない。

 この天覧相撲について、ホロ苦い思い出と、ほのぼのとした思い出がある。

 あれは相撲記者になって10年経ったか、経たないかの頃だった。天覧相撲は、万一のことがあってはいけないので警備が大変で、事前に内示はあるが、報道発表はお出でになる当日と決まっている。

 ところが、オフレコのつもりで、つい会社内で、

「明日、天皇陛下が(国技館に)お出でになるよ」

 と話してしまい、それをまったく大相撲とは関係のない部署の記者が聞きつけ、

「今日、天皇陛下が相撲見物のために国技館へ」

 と書いてしまった。完全な勇み足だ。

 さあ、大変。このことを知った相撲協会からは猛クレームをつけられるわ、ほかの記者クラブ加盟社からは吊るし上げを食うわ。まさに袋叩き状態になり、その場所は記者クラブへの出入り禁止まで申し渡されてしまった。

春日野理事長の“天覧”への思い入れ

 自分が書いたわけではないのに、と私は腹立たしい思いだったが、とりあえず行くところがない。すると、大らかで定評のあったときの春日野理事長(元横綱栃錦)がこんな助け舟を出してくれた。

「だったら、ここ(理事長室)にくればいいじゃないか。オレが許すから、毎日、来い」

 こうして、私は、毎日、理事長室に大手を振って入り浸って、理事長談話も独り占めすることになり、ほかの社の記者たちに、

「これじゃ、ペナルティーを科したことにならないじゃないか」

 とずいぶん恨まれた。今では考えられない厚遇に浴したことになる。

 この春日野理事長は、軍隊生活を送った経験もあり、天皇、皇后両陛下に対する思いにはひとしおのものがあった。だから、天覧相撲の前日から緊張し、

「ご説明するとき、口が臭いといけないので、2日前からネギやニンニクなど、臭いのするものは絶対に口にせず、精進潔斎して臨むんだよ」

 と話していたのを懐かしく思い出す。天覧相撲に対する思いは人さまざま。ぜひ次の機会にはお姿を拝見したものである。

語り部=大見信昭(東京相撲記者クラブ会友)

月刊『相撲』平成30年2月号掲載 

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