昭和50(1975)年、名古屋には二所ノ関旋風が吹いていました。横綱輪島は全休、北の湖も9勝6敗、人気大関の貴ノ花も途中休場と精彩を欠き、大荒れの場所。その優勝争いの先頭が、なんと前頭筆頭の金剛と青葉城で、十両の優勝も天龍と、同じ二所ノ関部屋の関取衆だったのです。
※写真上=昭和50年名古屋場所、異色力士・金剛のユーモアとウイットに富み、強がり・はったりを利かせた明るいコメントは、奇跡の初優勝と相まって大きな話題を呼び、名門・二所ノ関部屋に久しぶりの活気と熱をもたらした。あれから40年の月日が…
写真:月刊相撲
長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。
相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。
本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。
昭和48年5月場所からスタートした民放唯一の大相撲中継番組『熱戦十番』(文化放送・ラジオ)――62年3月場所で終了してしまいましたが――は、横綱NHKとがっぷり四つになっては勝てるわけもないので、脱NHKの発想で、ひたすら楽しい相撲放送を展開(当時の聴取率調査ではNHKを圧倒したんですよ)。取材もとにかく足で、ということで、私たちは毎朝、話題の部屋の稽古場に通い詰め。
さて、名古屋から南へ名鉄で“名鉄”で30分余りのところにある半田市の成石神社に陣取った二所ノ関部屋にも、10日目以降は当然、連日通い詰めました。
12日目か13日目だったか。稽古が終わると、当場所快進撃とともに、ユニークな“ホラ吹き”コメントで旋風を巻き起こしていた金剛が、ゴムまりを手に私たちに近づいてきました。そしていきなり、「これを鉄砲柱に当てたら優勝!」と言うなり、肩を回し始めました。(だけどここの柱は東京の部屋と比べると貧弱で、半分もない太さだけどなあ……)と思って眺めていると、土俵の中でワンバウンドしたボールは見事その鉄砲柱に命中したではありませんか! いやあ、これには野次馬気分だった私もびっくり、金剛もニヤッ!(と笑ったように見えましたが……)。その昔、彼は中学時代は野球部で、エースで四番だったそうで、ひょっとしたら本場所の優勝より自信があったのかもしれません。
14日目、増位山を破って優勝にグッと近づいたその日、当時は文化放送だけが行っていた支度部屋レポートの担当だった私は、NHKに先駆け支度部屋からの衝撃(?)の生レポートを入れました。支度部屋の入り口付近にいたディレクターが、帰途に就いた金剛をつかまえると、私に「バン、レポート! レポート!」と命じたのです。
「えっ、それはいくらなんでも……」と、私は腰を引きながらも、掟破りのインタビューを決行、金剛にマイクを向け、ナマの声を放送するに及んだのです。そのとき金剛は普通に(少なくとも私にはそう見えました……)答えてくれました。
そんなこんなで一夜明けての千秋楽。支度部屋に入ってきた金剛は、私を見つけるなり、「やい、バン! 優勝できなかったら、テメエの責任だからな!」と支度部屋に響き渡るような声で、怒鳴り散らしたのです。周りの力士はびっくりして振り返り、新聞記者も何事かと寄ってくるし、居心地の悪さは、もう最悪……。
肝心の相撲の方は、負ければ青葉城と同部屋優勝決定戦というところでしたが、金剛が、ヒヤヒヤの相撲ながら難敵・鷲羽山を破って生涯一度の優勝を決めたのでした。
さて、名古屋城での優勝パレードを終えた金剛は、バイパスのようなひとっ気のない半田市の千秋楽打ち上げ兼祝勝会の会場に向かいました。千秋楽の一仕事を終えた私は、それをタクシーで追いかけたのです。そして追いつき、追い越すときに窓を開け、「関取っ! おめでと~っ!」と祝福を伝えました。すると、かの金剛は、大銀杏も紋付・羽織・袴も風に乱れさせながら、「バンのバ・カ・ヤ・ロ~~!」と賜盃を手に叫んでくれたのです。
それは涙声のようにも聞こえたし、“ホラ吹きクレイ”になりきった自慢気に吠えたようにも聞こえました。でも、あの声は私の耳にうれしく懐かしく残っています。
語り部=板(ばん)信一郎(フリーアナウンサー。元文化放送『熱戦十番』アナウンサー)
月刊『相撲』平成26年11月号掲載
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