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2026-08-25

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第40回「プライド」その3

平成21年春場所10日目、式守錦太夫(のち40代伊之助)は、豊真将―安美錦戦で力士と接触し転倒。それでもヒザで土俵を這うようにして迫る力士をかわし、勝ち力士に軍配を上げた

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女は愛に生き、男はプライドに生きる。
そう言いませんでしたっけ。
確かに、もっとほかに楽な道がいっぱいあるのに、男ほど生き方にうるさい生き物はいません。
とりわけ、勝負に生きる男たちはそうです。
だから、人一倍努力もするし、どんな試練にもジッと歯を食いしばって耐えるんです。
つらいですよね、男って。
でも、だからこそ、人々を引きつけてつけてやまない魅力にあふれていることも確かです。
そんなプライドにこだわる土俵上の男たちのエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

行司にもプロ根性

土俵の名脇役の行司はどんな取組や力士に対しても不偏であり、正確であらねばならない。しかし、中には、いわゆる“行司泣かせ”の裁きにくい力士もいる。平成25(2013)年の九州場所で立行司に昇格した40代式守伊之助にとって、この裁きにくい力士の筆頭が安美錦(現安治川親方)だった。繰り出すワザが多彩な上によく粘り、土俵際でもつれる相撲が多く、伊之助は「人はいいんだけど、相撲は嫌いだよ」と言ってはばからなかった。

平成21年春場所10日目。当時幕内格で式守錦太夫と名乗っていた伊之助は、西前頭5枚目の安美錦と東前頭7枚目の豊真将(現錣山親方)との取組を裁いた。この場所、安美錦は9勝、豊真将は11勝して敢闘賞を受賞していることでも分かるように、どちらも元気いっぱいで、いつも以上に動きが機敏。これが伊之助に災いした。

激しい当たり合いから、豊真将が機を見て左を差し込み、寄り立てた。これを安美錦がなんとか俵伝いに回り込んで残そうとしたが、あまりにも動きが早かったために伊之助はかわしきれず、お尻に接触して転倒してしまったのだ。

注目はこのあとだった。ひっくり返った伊之助は素早く身を起こすと、なおも回り込もうとして接近する安美錦をヒザ歩行でかわし、立ち上がりざま、そのまま寄り切った勝者の豊真将にサッと軍配を上げた。

このプロ根性むき出しの名裁きに、館内のファンは大喜び。しばし笑いと喝采が鳴り止まなかったが、引き揚げてきた錦太夫はこう言ってこぼした。

「どこでどんなふうにぶつかったのか、さっぱり分からない。それより、ちょうど東京から息子が見にきていたんですよ。目の前でオヤジのえらいところを見せてしまいました。装束も、ヒザのあたりがこすれてもう使い物になりませんわ」

いやいや、息子さんはきっと行司に徹した父親の生きざま、プライドをかいま見て、「さすがは我がオヤジ」って誇りに思いましたって。

月刊『相撲』平成26年2月号掲載

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