※写真上=各時代で200mバタフライの頂点に君臨した3人(左からマーハー、オニール、ベルモンテ)
写真◎Getty Imges
2019年最初の連載は、豪華絢爛な3Way Matchです。
ミレイア・ベルモンテは最近のファンの皆様にはご存知、女子200mバタフライのリオ五輪金メダリスト。スペイン初の女子金メダリストでもあります。
スーザン・オニールは、90年代から2000年の豪州最強世代の、女子のエースで、1996年アトランタ五輪では200mバタフライ、2000年シドニー五輪では200m自由形と、異種目ながら2大会連続で金メダルを獲得。息継ぎをしている時間が比較的長く、その動きが蝶を連想させることから「マダム・バタフライ」の異名がついた選手です。
そして「マダム・バタフライ」と言えば、この人が黙っちゃいない。1970年代後半から80年代にかけて活躍した元祖天才少女で、世界で最初に「マダム・バタフライ」の異名がついた、メアリー・マーハー(米国)。
今回はこの3人の泳ぎを200mバタフライで戦わせて比較しながら、それぞれの特徴を探ってみたいと思います。
表1/各選手のスプリットタイムとラップ
50m 100m 150m 200m
マーハー 29.53 1.01.41 1.33.49 2.05.96
オニール 28.51 1.00.24 1.32.01 2.05.81
ベルモンテ 28.29 1.00.63 1.32.49 2.04.78
50m 50−100m 100−150m 150−200m
マーハー 29.53 31.88 32.08 32.47
オニール 28.51 31.73 31.77 33.80
ベルモンテ 28.29 32.34 31.86 32.29
マーハーの泳ぎは、1981年全米選手権のものを採用しました。オニールのラップは、そのマーハーの持つ世界記録を19年ぶりに更新したシドニー五輪代表選考会決勝のもの。ベルモンテは、彼女の自己ベストである2013年世界選手権決勝(銀メダル)でのものです。水中映像はリオ五輪のダイジェストのものを参考にしました。
最初の50mはベルモンテがリード。現在はバックプレートもありますし、潜水ドルフィンもかなり進化していますので、その辺の利点が生かされているのかもしれません。
次の50~100m区間は、オニールに軍配が上がります。この区間を31秒台で攻めていきます。オニールにとって、地元でのオリンピックの、地元代表を決める選考会とあって、ラスト50mを恐れず、思い切った「一世一代の勝負」に出たところです。ベルモンテより速いところから、その気概が伺えます。
100~150m区間は200m種目にとって非常に重要なラップですが、ここはベルモンテが31秒86と上げてきたものの、まだオニールが31秒77でトップ。女子2バタでこの胸突き八丁の局面で上げるベルモンテもさることながら、オニールも毅然と譲らず、31秒7をキープしています。
最後の50mは、さすがに女子800m自由形でもロンドン五輪で銀メダルを取り、短水路の800、1500m自由形で世界新を出したこともあるスタミナ自慢のベルモンテが32秒29と、この3人の中で最速をマーク。そして最後にバテてしまい33秒かかったオニールより速かったのは、なんとマーハー。ここを32秒47でカバーしています。
どうです? マーハーのレースから37年経過しているのに、こうやって同じ土俵で競わせることができること自体が凄いことじゃないですか? それだけ、当時のマーハーはズバ抜けていた…といえます。
これらを図にしてみると、図1のようになります。
3人のストローク数の変化を見ると、やはりベルモンテは中盤から後半に泳ぎの質がほとんど変わらないように見えます。さすがに短水路ながら1500mまで世界の頂点に立っただけのスタミナの持ち主と言えるでしょう。1500mをしっかり泳げるということは、それだけ「プルが止まらない」ということですから、そういう部分で培った能力は、200mバタフライでも生かされているということですね。オニールにしても、200m自由形でも世界の頂点に立つ選手なので、やはり上半身の疲労耐性は高いといえます。
ベルモンテとほかの二人とのストローク数の違いは、ターン後の水中ドルフィンの違いでもあります。ベルモンテは大体各ターン後に6~7キックは潜り、ラストのターン後はさらにその回数を増やしますが、マーハーはほぼそのまま浮き上がって泳ぎ始める感じです。オニールもドルフィンキックは2回分くらいしか潜りません。
実際にストローク数としては違うように見えますが、浮き上がりの距離の違いを勘案すれば、ストローク長そのものに大きな違いがあるとは、これだけでは言えません。であれば、なぜこの3人が、200のバタフライで女王に君臨したのか…何か共通項があるはずです。
一つは、ノーブレスの使い方。マーハーとオニールは、息継ぎが「2回(ストローク)に1回」のリズムです。ベルモンテは、毎回呼吸っぽいですが、時折「2回に1回」を入れます。
息継ぎの回数を減らすということは、それだけ酸素の取り込みが減るのですが、バタフライは息継ぎで上体を上げたときに、正面から大きな水の抵抗を受ける泳ぎですので、息継ぎの回数を減らすことで抵抗を減らした方がプルの負担が軽くなる…という意味で、そのような泳ぎをする選手が出てくるのです。
もう一つは、3人とも150mまでは概ね入水時の第1キックをしっかり打ち、第2キックは蹴り上げだけしっかり上げて、蹴り下ろしは軽く足を下げているように見えます。ラストの50mは、しっかり第1・第2キックを打っています。最初から第1・第2キックを両方強く使うと、酸素需要も増え、息継ぎの回数を増やさなければならなくなります。より少ないエネルギーで150mまでを乗り切るため、キックを節約することが求められたということですね。
3人ともラスト50mは全力で2回のキックを打ちますが、とりわけ、マーハーの第2キックは踵の位置が凄く高いので、よほどキックが強かったんだろうな…と推測できます。
では、3人の泳ぎの違いはどこにあるのでしょうか?
マーハーの泳ぎは、よく見るとグライド局面(水中を潜る局面)があまり見られず、ずっと水面上を飛び跳ねているように見えます。オニールはそれに比べると、少し上体を沈み込ませています。そして、息継ぎのストロークがノーブレスのときよりも少しだけゆっくりしていて、顔を長く上げているようにも見えます。マーハーは息継ぎの際の「飛び跳ねた感じ」が、オニールは息継ぎの時間が少し長くて優雅なあたりが、両者に「マダム・バタフライ」の異名がついた所以なのかな? とも感じられますね。
ただひとり、異名がないベルモンテですが、この3人の中では最も深くグライドしています。そしてもう一つ特長的なのは、プルの指先の軌跡が、ほぼ真っすぐに後方まで進む、クロールで言う「I字型」のようになっています。クロールと併用していたため、そのような泳ぎが身についたのかと推察しますが、グライドから浮上する力とプルの高い推進力を使いながら、キックはターン後のみ使って、極めて効率良く150mまでペースを作って泳いでいると考えられます。
こうやってみると、マーハーがあの時代にここまでの記録を出していたことが驚異であることや、世界で最初にそれを打ち破ったオニールの強さ、現在、2分4〜5秒のハイアベレージを出し続けているベルモンテの凄さの理由が、なんとなく分かったように思えますが、どなたか、ベルモンテに何かニックネーム的なものを作ってあげて欲しいものですが、いかがでしょう?(笑)
タフさという部分ではロッキー・バルボア(映画『ロッキー』の主人公)が「イタリアの種馬」という異名をつけられていましたが、男子選手じゃないのでそういうわけにもいかないので、「カタルーニャの○○」…とか、2020東京五輪までに、彼女のために何か考えてあげてください。
文◎野口智博(日本大学文理学部教授)
●Profile
2024-09-10
鹿島アントラーズの植田直通が「泣きそうなくらい感動した」と語る新日本プロレス内藤哲也の試合とは?【週刊プロレス】
PR | 2024-09-11
【完売御礼】週プロ40周年記念イベント追撃戦「週プロトークEXTRA」に中野たむ登場!10・15開催
2024-09-12
【相撲編集部が選ぶ秋場所5日目の一番】王鵬が初めて琴櫻を倒す殊勲! 全勝は大の里ただ一人に
2024-09-12
お待たせしました!豊川堂本店「BBMカード販売会」
2024-09-05
「とにかく履いて感じてほしい」 UAが自負する“優しい”ランニングシューズ
2024-04-01
ベースボール・マガジン社の人工芝一覧、導入実績、問い合わせ先 [ベーマガターフ]
2024-09-10
鹿島アントラーズの植田直通が「泣きそうなくらい感動した」と語る新日本プロレス内藤哲也の試合とは?【週刊プロレス】
PR | 2024-09-11
【完売御礼】週プロ40周年記念イベント追撃戦「週プロトークEXTRA」に中野たむ登場!10・15開催
2024-09-12
【相撲編集部が選ぶ秋場所5日目の一番】王鵬が初めて琴櫻を倒す殊勲! 全勝は大の里ただ一人に
2024-09-12
お待たせしました!豊川堂本店「BBMカード販売会」
2024-09-05
「とにかく履いて感じてほしい」 UAが自負する“優しい”ランニングシューズ
2024-04-01
ベースボール・マガジン社の人工芝一覧、導入実績、問い合わせ先 [ベーマガターフ]