第54回スーパーボウルで、AFC代表のカンザスシティー・チーフスが、NFC代表のサンフランシスコ49ナースを31-20で破って、50年ぶりの優勝を果たし、今季の幕を下ろした米プロフットボールNFL。リーグ創設100年の記念にふさわしい、試合終盤の逆転劇がファンの興奮を盛り上げた。
試合内容に劣らず、全米で話題になったのが、キックオフ直前のゲームのオープニング映像だ。
野原でフットボールに興じる子どもたち。1人の少年がキックオフされたボールをキャッチし、リターンするところから始まる。タックルをかわしはねのけ、疾走する少年。ベンチに腰かけていた、往年の名RBジム・ブラウンが彼に向って語り掛けるのが
この言葉が、映像のキーワードとなる。ハウスとはエンドゾーンのことで「タッチダウンまで走り切れ」という意味だが、ここでは、会場までボールを持っていくという意味にも引っかけてある。少年はフィールドを出て、そのまま止まらずに走っていく。
ブラウンを皮切りに、 アーロン・ドナルド、ジョーイ・ボーサ、スティーブ・ヤング、ジョー・モンタナ、クリスチャン・マキャフリー、ドリュー・ブリーズ、アルビン・カマラ、ジャスティン・タック、レイ・ルイスら、歴代のスーパースターに励まされ、助けられ、ボールを持って全米各地を走り続ける少年。途中、2004年にアフガニスタンで非業の戦死を遂げたパット・ティルマンの銅像を見上げるシーンもある。1990年代の米映画「フォレストガンプ」を想起させる映像が続き、ついに少年はスーパーボウル会場のマイアミ・ハードロックスタジアムに到達する。
NFL100年に合わせた選出されたスター選手の歓迎を受ける少年。持ってきたボールをペイトン・マニングに渡し、NFL最古のシカゴ・ベアーズの女性オーナーで、伝説のヘッドコーチ、ジョージ・ハラス氏の娘でもある97歳のバージニア・マキャスキーさんから、代わりにスーパーボウルのゲーム用ボールを手渡されると、フィールドに向かってに向かって走り出す。見送るジョー・グリーンの最後の一言も印象的だ。そして少年の後には全32チームのジャージを着た子どもたちが続く。
ここから現実の生中継映像につながった。手を振りながらフィールドに走り込んだ少年。レフェリーのビル・ビノビッチさんとがっちり握手して、ボールを手渡した。そして場内の大歓声を浴びながら、フィールドを去って行った。画面に浮かび上がるのは。
わずか3分足らずの映像だったが、試合前の高揚感もあり、見ていて涙が流れた。しかし、それは演出の巧みさだけが理由ではない。歴史や名選手へのリスペクト、そして「次の100年」を受け継ぐのは子どもたちだという明確なメッセージに溢れたものだったからだ。筆者の周辺のファンからも同じような感想を数多く聞いた。
走り続けた少年はロサンゼルス在住の13歳、マクスウェル・“バンチ―"・ヤング君。実際にフットボールの選手として、素晴らしいスピードで将来を嘱望されているという。
米「タイム」誌は、接戦だった今年のスーパーボウルのMVPを選ぶのは難しいが、真のMVPはこの少年ではないか、という記事を掲載した。筆者も同感だ。【小座野容斉】
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