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2018-01-24

【連載●世界の事例から学ぶ!】 Swimming Global Watch 第4回 スタンフォード大女子チームのカルチャーについて学ぶ

 これまで3回にわたり、チームの「ハイパフォーマンス・カルチャー」とは何か? それを作り出すリーダーの役割とはどのようなものか? について紹介してきた。今月は、女子水泳部で全米最強のスタンフォード大水泳部がどのように「ハイパフォーマンス・カルチャー」を構築しようとしているのか、ヘッドコーチのグレッグ・ミーハンの活躍を紹介したい。

★「カルチャー」が有力選手を呼び寄せる

 筆者は昨夏にスタンフォード大水泳部のトレーニングを見学した。史上最強の女子競泳選手の呼び声が高い、ケイティ・リデキー(写真上の右)のトレーニングを見学すると同時に、どのような雰囲気(カルチャーと置き換えてもよい)でトレーニングをしているのかを探りにいったのだ。リデキーだけでなく、スタンフォード大女子水泳部からは、2016年リオ五輪で、マヤ・ディラードが金メダル2個、銀メダル1個、銅メダル1個を獲得(オリンピック後に引退)、女子100m自由形で黒人初の金メダルをもたらしたシモーネ・マヌエル(写真上左/金メダル2個、銀メダル2個)、そしてリレーメンバーとして銀メダルを獲得したリア・ニールがいる。このチームを統括するのが、グレッグ・ミーハンヘッドコーチだ。

「リデキーがいるのだから、それは強いだろう」と見る向きもある。2017年のNCAA(全米大学選手権)でスタンフォード大女子は1998年以来の優勝を果たしている。ミーハンがヘッドコーチ職を得たのは2012年だが、副ヘッドコーチのトレーシー・スラッサーとともに、5年間にわたり着実に「ハイパフォーマンス・カルチャー」を構築してきたと考えられる。

 高校から大学に上がるときに、選手が選ぶ基準には、①コーチの人格や資質、プログラム内容 ②大学自体のブランドやサポート体制などもあるが、チーム全体の「カルチャー」も大きな要因となる。米国のトップチームでは、この「カルチャー」の構築こそが、トップコーチに求められる重要なスキルといえるのだ。そうでなければ、リデキーのような超トップ選手が入学してくることはないのである。

 2018年1月8日の『スイミング・ワールド』でミーハンはこの点について、「カルチャーの構築には時間がかかる。プロセスを急いではダメだ」と語っている。「選手には、どのような姿勢でトレーニングすべきなのか、どのようにレースを考えるべきか、日々の生活をどのように送るべきか、など、最も重要な優先順位について日々話している。長期的な成功をチーム全体にもたらすには、必要なステップを着実に踏んでいく他はない」。

 ミーハンはスタンフォード大に移る前、同じカリフォルニア州の名門、カリフォルニア大バークレー校のアシスタントコーチを長年にわたって務め、キャリアを磨いてきた。「シークレットは何もないです。ただ、選手のリクルートでは私たちのカルチャーについて誠実に説明していく。競泳の結果だけでなく、世界的な学業レベル、そして素晴らしい仲間に囲まれる環境。大学トップになっても、まだできることはたくさんある」とその向上心が止まることはない。

 ミーハンはこうしたトップチームをリードすることに欠かせない要素として、「自分の仕事を愛すること、そしてコンシステンシー(仕事を高いレベルで安定的、継続的に遂行する能力)が欠かせないと語っている。「私は今の仕事を愛しているし、素晴らしい仲間に囲まれている。プールサイドでは、自分のメッセージと自らの性格を一致させるようにも努力している」。

そのリーダーシップに注目が集まるミーハンコーチ。スタンフォード大女子チームの指導のみならず、米国代表チームでのカルチャーづくりで好成績につなげている
写真:Getty Images

★理念を共有できる存在の重要性

 もちろん、才能のあるトップコーチ一人で目標を達成できるわけではない。ミーハンの場合には、トレーシー・スラッサーがチームのカルチャーを育てる上で、重要なサポート役を担っている。「5年以上にわたり、トレーシーは素晴らしい仕事をしてくれた。ストローク技術の専門家で、彼女がプールサイドにいるだけで、選手は安心する。また、彼女は、女子選手の良い相談相手でもある」とミーハン。

 ミーハンとスラッサーが出会ったのは10年以上も前の2006年のことだ。別の大学でコーチングしていたミーハンがアシスタントコーチとして面接したのがスラッサーだった。人生やコーチングに対する考え方に共通点が多いとミーハンは見越したが、このときはスラッサーが仕事のオファーを断ったという。しかし、スタンフォード大でのアシスタントコーチの募集をしたときに、ミーハンはスラッサーにもう一度、一緒に働くことを依頼したのだ。

 スラッサーはミーハンについてこう話す。「私自身、グレッグのリーダーとしての資質に驚き、尊敬している。見ての通りよ」。「大切なのは、正直で、透明感のある組織運営、そしてチームで成し遂げる目標をはっきりと示すこと。その一連のプロセスからチームメンバーの可能性を最大に引き出す」。

 ミーハンにとって今の自分の基礎を作ったのは間違いなく父親だったという。「父は誰にでもポジティブな影響を与えることができる能力を持っていた」。その能力を最大限に伸ばそうとミーハンは考えている。その証拠となるようなコメントが『スイミング・ワールド』に出ている。

 今年、スタンフォード大女子チームに加わった新人選手のキーメンバーは7名だ。2年生になったリデキーとともに、スタンフォード大の新しい歴史を作っていくことになる。「1年生は初日からチームに新しい息吹を吹き込んでくれる。チームカルチャーが引き続いて向上していく重要な要素だ」というミーハンはスタンフォード大だけでなく、2017年世界選手権でヘッドコーチを務めた米国代表チームにおいても、同じ姿勢で、トップコーチとして次世代を引っ張る存在になっている。

 ミーハンのリーダーシップに、世界の注目が集まり始めている。

文◎望月秀記

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