選手の能力を引き出すために、対話を重視する。そのためにコミュニケーションのクオリティーを上げていく努力を惜しまない。さらに、これ以外にもTWOLAPS TCらしさを示すキーワードを挙げてもらった。
横田 多様性を認める、つまり他人との違いを認めることは、もう一つのキーワードですね。個々の選手の違いもそうですし、選手のカテゴリー、求められているもの、性別、種目も違うなかで、置かれている状況が全然違う。それらを前提にした上でコーチングをしています。もっと言えば、多様性を認めるということは、答えが一つではないと同じ意味だと思っています。速く走るための方法も一つではないですし、それぞれの選手のやり方、育ってきたバックグラウンドによって、今やるべきことも変わってくるわけです。例えば新谷の場合、自分のこだわりが強い選手ですし、結果への執着とか僕が育ってきたところと真逆の世界で生きてきています。ですから、僕がやってきたことを是とするわけにはいきません。
それに、違いがあるということは、ほかから学べる要素や気付きが多いということだと思うんです。チーム内の誰もが認め合い、すべてが違うという前提の下、その多様性がお互いを刺激して高め合えるチームにしたいと思っています。
新谷(左)は昨年のドーハ世界選手権10000mに出場(写真/TWOLAPS TC)
プロコーチとして、結果が求められるのは当然のこと。横田コーチはその結果の見え方にも気を配る。競技力向上にとどまらず、個性豊かな選手個々の付加価値を高めていくところまで意識している。マネジメント的な発想ができる横田コーチならではの視点は、持続可能なビジネスとして成功させる上での強みといえそうだ。
横田 いろんな選手がチームとして一つの集合体をつくるなかで、結果自体もいろんな見え方になってくれればいい。同じように見える選手たちが同じような結果を出してもストーリーは生まれないんです。それぞれの違いを認めて面白がってあげると、そこにひも付いていろんな人たちが共感してくれるわけです。実業団選手はこうじゃなきゃ、長距離選手はこうじゃなきゃと決めつけてしまうと、それだけ見てくれている人とひも付く線が少なくなってしまう。女子長距離の実業団選手に対して同じようなイメージを抱くと思うんですけど、そんなわけないんですよ。選手それぞれに個性があるので。その個性を認めた上で、このチームをより魅力的にしていくためにも、そういうストーリーをいくつもつくってあげることが大事だと思っています。
僕はチームの代表ですし、ビジネスとしてやっているのでそこまで考えています。いくら選手が活躍しても刺さる人に刺さらなかったらあまり意味がありませんから。プラスアルファの価値を提供し続けることはどの世界でも大事ですが、競技の結果を上げてほしいという依頼に対して、プラスアルファで選手の価値を高めていけば、また別の選手が入りたいと思ってくれたり、チームとしてはより強くなったり、広がったりしていく。強い選手が入ってくれば、また注目も浴びて、その選手をどんどん魅力的にしていけば、好循環が生まれるわけです。
選手自身が私はこういう人間です、と発信していくのはもちろん大事なことですが、僕は一歩引いたところから選手に対してストーリーをつくってあげられる。そういう強みはあると思っています。そのために僕自身もある程度前に出ていかなければと思っていて、僕が注目されることで、うちの選手たちにスポットライトが当たることもあると思いますから。
前・後編に渡って、横田コーチのコーチング論をお届けしてきたが、その締めくくりとして、TWOLAPS TCが目指すもの、将来像を語ってもらった。
横田 TWOLAPS TCは世界大会でメダルを獲得するという結果の部分を追い求めていくチーム、それは今後も変わりません。そのなかで僕らは走ることを通じて、人生を楽しむこと、より考えていくことを伝えていきたい。
そのときに、シドニー五輪で金メダルを取った高橋尚子さんのように日本国民に勇気を与えること、それは素晴らしいですし、僕らもやりたいと思っています。ただ、ほかの勝てなかった人たちの人生が豊かでなくていいのかという話です。競技を通して、自分たちの人生について考えて、そこにアプローチするためにしっかり競技を考えてやる。この考え方を選手が引退した後も次の世代に伝え、さらに広めていく。僕らはむしろこちらをやりたい。
僕は何が良くて、何が悪いという話はあまりしたくないのですが、若いうちに勝利至上主義でいろんなことを管理しながら詰め込むのは間違っていると思うんです。それがすべてではないということを伝えていかなければいけませんし、中高生が勝つこと、速くなることだけを求められる現状を変えていきたいんです。それが僕のようなアウトローが女子選手の指導にかかわった意味だと思っています。その上で結果を出すのは手段ですし、ビジネスも持続的にやっていく。ビジネスが大きいということは社会に対して影響力があるということなので、それはすべてセットだと考えています。
夢物語かもしれませんが、陸上に関わる子は競技を好きでいてほしい。競技をやっていた子がファンになるのが一番手っ取り早いわけじゃないですか。でも、もう陸上なんて見たくない、駅伝に携わりたくないとなってしまうのは悲しい。そんな現状は変えなければいけませんし、そうではない世界もあるんだよという選択肢を僕らが示さなければいけないと思っています。複数のなかから決めるのと、これしかないというなかで決めるのでは全然話が違いますから。自分の人生を自分で責任を持って決められる。これは陸上だけに限りませんが、そういう世界にしていきたいと思っています。
陸上競技マガジン2020年6月号から転載
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