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2019-08-07

[甲子園・記者コラム] 「体の中で打つ」履正社四番・井上のキーワード

8月7日、第1試合。履正社(大阪)は大会タイとなる1試合5発を含む17安打をマーク。強打を発揮し、霞ヶ浦を11対6で下した。

※上写真=履正社の四番・井上広大は霞ヶ浦との1回戦で3安打2打点。1回表には左翼越えの本塁打を放ち、センバツから成長した姿を見せた
写真◎高原由佳

甲子園での悔しさは、甲子園でしか返せない

 履正社の四番・井上広大はこの日のためにバットを振ってきた。

「サッパリの結果……」

 今春のセンバツでは、星稜(石川)との1回戦で4打数無安打(2三振)。相手右腕・奥川恭伸(3年)に手も足も出ず、チームも17三振を奪われ散発3安打完封負けを喫した。
 9回最後の攻撃、井上は投ゴロ併殺で最後の打者で、大会初日で甲子園を後にした。

 大会屈指の打者として注目を浴びながら、甲子園で味わった耐え難い屈辱。勝負の世界は、結果で取り返すしか方法はない。

「見たことのないボール。『良い負け』と言ったらおかしいですが、自分が成長する上での糧になった」

 奥川に翻弄された映像を何度も確認する中で、行き着いた「キーワード」がある。

「体の中で打つ」

 その真意をこう語る。

「追い込まれるまではポイント前。追い込まれてからは体の中に持ってこられるように。変化球の対応ができなかったのでポイントを近くにする。2ストライクからは(ボールを見る)時間が長くなっています」

 練習方法としては、フリー打撃で打ち込むのではなく、置きティーでフォームを固めた。意識は「おへそのあたり」。また、練習用のバットは従来よりも2センチ長い86センチを持った。長いバットだと「前でとらえたい」と思うばかり、打球がドライブしてしまうという。
 そこで、くり返しになるが「体の中で打つ」ことを念頭に置いてスイングすると、バットが内から出るようになった。
 つまり、やや遠回りしていたバットの軌道から、インサイドアウトが実現したのである。

 この新打法の習得が、打席での対応力につながった。「練習でも変化球を張りながら真っすぐを打つ。体の中にポイントを持ってくることによって、とらえることができます」

 大阪大会では7試合で4本塁打。準々決勝から3年ぶりとなる夏の甲子園出場を決める決勝まで、3試合連続アーチ。
 再び「大会屈指のスラッガー」として、今回は確かな手ごたえと自信をつかんで、春夏連続のステージへと戻ってきた。

 プロ注目右腕・霞ヶ浦(茨城)の148キロ右腕・鈴木寛人(3年)との1回戦。雪辱の舞台、練習の成果を発揮するには、この上ない相手であった。

 初回、一番・桃谷惟吹(3年)が先頭打者本塁打。二死後、井上に打席が回ってきた。

「桃谷が真っすぐを打ったので、変化球を狙っていた。初球が真っすぐだったので、真っすぐを張って、変化球に対応した」。練習してきたパターンとは逆ではあったが、高めに浮いたスライダーを詰まりながらも左翼席へ運んだ。
 8回には中前タイムリーを放ち、3安打2打点。履正社は大会最多タイチーム5本塁打を含む先発全員17安打の猛攻で、初戦突破(11対6)を遂げた。

 井上にとっては待望の甲子園1号。だが、好機で安打をマークした8回の適時打のほうが、四番としての充実感があったという。

「やっと1本出ましたが、満足することなく、体の中から打って、ライナーを意識していきたい」

 試合後にも出たキーワード。目標とする全国の頂点まであと5勝。井上の夏のリベンジマッチは、幕を開けたばかりである。

文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)

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