設楽悠太と井上大仁の2人が2時間6分台で走った今年の東京マラソン。ハイレベルな記録だけではなく、勝負という観点からも非常に面白いレースとなった。2人に差を付けたポイントは何だったのだろうか。
設楽悠太(Honda)が2時間06分11秒の日本新、井上大仁(MHPS)が2時間06分54秒の日本歴代4位と、好記録が生まれた今回の東京マラソン。ただ、2人とも共通していたのは記録を狙いにいったレースではなく、「勝つ」ためのレースをしたということだ。
30kmで先導していたペースメーカーが外れると、レースが動く。優勝したディクソン・チュンバらアフリカ勢の選手がペースを上げ始めた。分岐点が訪れたのは31km付近。設楽はこのペースアップにも冷静に対処し、先頭集団から離れることを選択。一方で井上は「勝つためには先頭についていかないと」と、できる限り先頭に付くことを選択。「一度離れる選択肢はなかった」という。
井上は昨年のロンドン世界選手権マラソン代表となり、世界トップのレースを経験したが、勝負に加わることができなかった。それ以来、勝負を優先するようになった。大会前の会見では2時間06分00秒を目標に掲げたが、「自分が目指しているのが世界レベルの選手になること。これは日本記録がどうということではなく、結果として出していければ、ということ。今回も挑戦するが、いつかは世界レベルになればいいかなと思っています」と、意図を語っていた。世界を肌で感じ、勝つためには何が必要なのか判断した結果だ。
設楽も大会前の会見で「今回は記録よりも勝つことを大事にしていく」と話したが、目標タイムは井上よりも3分遅い「2時間09分00秒」としていた。昨年の同大会で中間地点を1時間01分55秒で通過していたが「2、3回目のマラソンだったら速いと思って躊躇したかもしれないが、初マラソンだったから迷いなく追いかけることができた」と振り返った。その経験が、今回の判断となったのだろう。
目標タイムに差はあれ、勝ちにこだわることを明言していた2人。その過程の違いが、終盤のレース展開の違いに現れた。
設楽は3レース目となった今回のレースを「ハーフを過ぎても余裕度が違った。30kmでバラけたところでも冷静に走れた」と振り返った。30kmまで15分を切っていた5kmごとのラップは、30~35kmでは15分00秒となったが、35~40kmでも15分11秒、ラスト2.195kmも6分40秒でカバーした。昨年、井上に抜かされた38km地点で、逆に井上を抜き去り、最後はゴール後に「初めて」(設楽)倒れ込んだ。2位に入り、力を出し切った設楽は「今の練習は間違っていない。これからも練習を積んでいければ結果は付いてくると思う」と、手応えを得た。
先頭集団に付いた井上は30~35kmは14分55秒と15分を切った。35~40kmでは15分38秒とペースを落としたが、それでも2時間6分台でカバーした。目の前で日本記録を出され「悔しさしかない」と唇をかんだが、大きな課題を得ることもできた。
それぞれが勝つために昨年と逆の展開を選んだ今年の東京マラソン。さまざまなレース展開は、ランナーとしての引き出しになるはず。今回は設楽に軍配が上がったが、本当の勝負の場所は、まだ先にある。この経験を生かすことができれば、また歴史は動くはずだ。
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