コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2017年7月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。
文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)
第9回「疲労回復(リカバリー)の基礎知識」
これから夏の大会に向けた追い込みが始まり、暑熱環境下で緊迫した状況が続きます。そこで、キーワードになるのが疲労回復です。
近年では、アスリートが「練習や試合後に速やかに疲労回復を行うこと」がリカバリーとされ、最大限のパフォーマンスを発揮するためにもスポーツ現場での積極的なリカバリー対策が注目されています。
まず、アスリートにとっての疲労とは「作業能力が低下することで、多くの場合は疲労感を伴う現象」と定義づけられています。
アスリートにおける作業能力とは選手個々が有する競技パフォーマンスを意味し、身体的疲労(生理的疲労)がそれらを低下させることを意味しています。
この身体的疲労(生理的疲労)に対して早期に適切なリカバリーが行われることで、競技パフォーマンスの早期回復を図ることができるのです。逆に言えば、早期に適切なリカバリーがされなければ早期回復には至らないのです(図A)。
つまり、早期に適切なリカバリーを選択するために、どのような身体的疲労(生理的疲労)があるのかを把握していることが求められます。
身体的疲労(生理的疲労)には、どのようなものがあるのでしょうか。
大きく分けて、「1.エネルギーの枯渇」、「2.筋肉(抹消)への疲労物質の蓄積」、「3.筋の微細損傷や筋肉痛」、「4.生体内恒常性のアンバランス」、「5.脳(中枢)の疲労」が挙げられます。
つまり、疲労を感じていたとしても、それが上記のどの身体的疲労によって生じたものなのかという原因はさまざまであり、パフォーマンス低下が生じる原因もさまざまであるということなのです。
この疲労を車に例えて考えてみます(図B)。
1.エネルギーの枯渇
私たちが野球をできるのも、食事によって得られたエネルギーによってエネルギッシュな活動が可能になっているからです。
いくら良いエンジンの自動車だとしてもガソリンがなければ走らないように、いくら恵まれた体格を持っていたとしても、ガソリンのようなエネルギーがなければ身体も動きません。
2.筋肉(抹消)への疲労物質の蓄積
疲れたときに“乳酸がたまった”などと表現するように、身体活動が続くと体内に疲労物質が蓄積されていきます。この蓄積された疲労物質によって円滑な身体活動ができなくなります。
自動車で例えると、タイヤの溝が削れていたりシャフトが歪んでいたりすると、思うようには動かないことと同じです。
3.筋の微細損傷や筋肉痛
特定の部位に普段よりも高強度の負荷が加わるでは、鍛え上げられた筋でも損傷が生じたり、筋肉痛を伴うことがあります(マウンドが硬かったり、慣れないような動きをしたときなど)。この筋のダメージは疲労物資が蓄積するのとは異なり、筋そのものが損傷を受けたことになります。
自動車で例えると、タイヤがパンクしたり、ラジエーターが破損していて、そもそも動かない状態になってしまいます。
4.生体内恒常性のアンバランス
この生体内の恒常性とは体温や体水分量がどんな状況であっても大きく変動がない状態を意味し、アンバランスとはそれが崩れた状態です。すなわち、体温が上昇し過ぎている状態や、脱水状態のことを表します。
自動車で例えると、ラジエーター液が無くなっていたり、エンジンオイルが古くなってしまっているような状態を意味します。
5.脳(中枢)の疲労
最後に、脳疲労です。これはボーッとして集中力が欠けたような状態になります。
自動車で例えると、ドライバーの体力を意味します。いくら自動車が完璧な状態だったとしても、それを扱うドライバーが疲れていたら、良いドライビングはできません。
図Cに疲労を起こす各種の要因とその対処法についてまとめました。これをトレーナーは「スポーツ現場の戦略的リカバリー」と考えています。
選手それぞれに“疲れた時はこの疲労回復方法!”というルーティンがあるかもしれません。しかし、実は疲労と言ってもその要因はさまざまであるため、疲労に応じた対応策を考えることが必要であるということを、今回の内容をきっかけに知っていただければ幸いです。
かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。
文責◎ベースボール・クリニック編集部
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