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2019-04-23

野球のコンディショニング科学「スピードリハーサルの必要性」

全力ウオーミングアップは疲れてしまう?

 スピードリハーサルをすると、実際の動きやすさに影響はあるのでしょうか。
 ウオーミングアップ時に全力を出すことに対し、選手からは「全力を出してしまうと後半疲れる」などの声が聞かれます。果たして、これは本当なのでしょうか。

 図Bを見てください。これはサッカー選手を対象とした、全力ウオーミングアップした場合と手抜きウオーミングアップをした場合の、試合前半・中盤・後半のランニングスピードの出しやすさについてのアンケート結果です。

 試合前半では10名中8名が全力のほうが手抜きよりも動きやすいと回答し、中盤になると10名中7名が同様に全力のほうが良い結果を示しています。

 そして、選手が訴える後半についてです。全力のほうが手抜きよりも動きやすいと回答したのは10名中2名でしたが、逆に手抜きのほうが動きやすいと回答したのは10名中1名にとどまり、残りは変わらないという結果になっています。

 なお、全力ウオーミングアップした場合と手抜きウオーミングアップをした場合における実際の運動パフォーマンスについても分析した結果、ランニングスピードや敏捷性において全力ウオーミングアップをしたほうが、特に前半において良い結果になっています。

 つまり、スピードリハーサルをしたほうが主観的にも客観的にも動きやすいため、野球で言えば1回から選手が持っている力を最大限に発揮することが可能になると考えられます。

体の準備ができていないとトラブルの危険性が高まる

 今回はウオーミングアップでスピードリハーサルをすることの必要性について紹介しました。

 ウオーミングアップの目的は、試合や練習で全力を発揮できるための準備をすることです。この準備と練習や試合時のスピードとのギャップが大きいと、運動パフォーマンス発揮だけに限らず、ケガにも大きく影響してしまうということです。
 もちろん、ウオーミングアップすべてを全力で実施しなければならないわけではなく、1本でもいいのでトップスピードでの経験をするべきだということです。

 なお、これはランニングに限らず、バッティングや投球でも同様のことが言えると考えられます。未経験の状態からいきなり著しく速く・強い動作を行うと、体が準備できていないため、何らかのトラブルが起きる危険性は高くなります。

 従って、ウオーミングアップでは筋温を高めるだけではなく、神経系も最高閾値に達するような内容を心がけてください。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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