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2019-04-09

野球のコンディショニング科学「試合に向けた脳のウオーミングアップ」

適度なセロトニンの分泌を促す方法

 セロトニンの分泌をうながす方法はいくつかありますが、ウオーミングアップとして適度な覚醒状態をつくるためには適度な日光浴とリズム運動が重要になります。

 日光浴とは、いわゆる太陽の光を浴びることですが、浴び過ぎると逆に疲れてしまうので、朝の光ぐらいが望ましいと考えられています。

 リズム運動は、低強度のリズミカルな運動です。例えばラジオ体操やウオーキングもそれに該当します。
 いくらリズミカルな運動だとしても、その強度が高過ぎるとセロトニンの適度な分泌とはなりません。だからと言って、低強度な運動をダラダラと実施することも良くありません。低強度な運動をリズミカルに集中して実施することがポイントであることを忘れてないでください。

 近年では、プロ野球の数球団が試合前のウオーミングアップで音楽に合わせてリズム運動を実施しています。まさしくこれは脳のウオーミングアップとしてセロトニンを分泌させる望ましい準備運動だと考えられます。

重要なのはルーティン化

 脳のウオーミングアップに必要なセロトニンを適度に分泌させるためには、低強度でのリズム運動が有用であることが分かったわけですが、これは1度実施すれば良いわけではありません。重要なのはこれを継続して実施することです。すなわち、ルーティンとして実施することが望ましいわけです。

 なぜならば、いくらリズム運動だとしても、やりなれない動作であると考えながらの運動となってしまい、むしろ脳にとってはストレスになるため、適度なセロトニンの分泌にはなりません。低強度のリズム運動は頭で考え過ぎず、自然と体が動くようルーティン化するまで継続することです。
 セロトニンの分泌の活性化が行われるまでに3カ月ぐらい要するとも言われています。試合直前で新たなリズム運動をするのではなく、先を見据えて自然に体が動くように実施することを心がけてください。

 試合に向けたコンディショニングとして、今回は脳のウオーミングアップに着目し、その方法について紹介しました。
 野球は一球一球局面が変わるスポーツであり、一つのプレーに多くの視線が集まるため、緊張感のある中でプレーをしなければなりません。だからこそ、極度な覚醒状態よりも冷静な判断ができる程度の覚醒状態を作ることが必要不可欠です。
 そのための手段の一つとして、脳のウオーミングアップがあることを知っていただければ幸いです。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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