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2018-05-16

「競泳界のレジェンド」北島康介が歩み続ける“第2じゃない”人生 ~2018年初夏~

引退後も続くチャレンジ

 2004年アテネ、2008年北京でオリンピック平泳ぎ2種目連覇を果たした北島康介氏。2016年4月に競技者としての区切りをつけているが、いまだにその存在感を発揮し続けている。水着ではなく、スーツ姿で。

※さまざまなスポーツ関連事業に携わる北島氏。その存在感は変わることはない
写真:阿部卓功/スイミング・マガジン

 多くのスポーツ関連事業に関係していることがその一因だろう。

 現在、北島氏が果たしている役割は、多岐にわたっている。現役時代の2009年に共同経営者と設立した会社の代表取締役社長として、リオ五輪男子400m個人メドレー金メダリストの萩野公介選手(ブリヂストン)等のアスリートのマネジメントやスイミングクラブ「KITAJIMAQUATICS」の運営、東京都水泳協会の理事として自身の名前を冠した水泳競技会「KOSUKE KITAJIMA CUP」の企画事業運営をはじめ、トレーニング機器の販売やトレーニングセミナーを実施する「Perform Better Japan」のゼネラルマネージャー、コカ・コーラのチーフ・オリンピック担当オフィサー、水着ブランド「+K arena by KOSUKE KITAJIMA」の展開などである。

 もちろん、ビジネスである以上、「自分の意志通りに運ばないことも多い」という現実がある。それでも、自ら人脈を広げながら、「事業を通して日本のスポーツ界に貢献できれば」という思いを、少しずつ実現している。北島氏は以前、自身の人生について「そもそも自分のキャリア(人生)はキャリアなので、(引退後の)セカンドキャリアという言葉自体が、ピンとこない部分があります」と語っていたことがある。プールから上がってからも、常に新しいことにチャレンジし続けているのは、そうした人間・北島康介の人生観があるからなのだろう。

アスリートの付加価値を

 その北島氏がまたひとつ、新たな分野での挑戦を試みようとしている。

 5月上旬に「ミーアンドスターズ」という、社会的影響力のあるスター向けライブコマース企業(インターネットで生放送の動画を配信し、その中で商品や貴重な体験の権利を紹介したり販売する事業を運営する会社)の執行役員CSO(Chief Sports Officer)に就任。アスリートがより多くの人々と交流を持つことで、自らの付加価値を高める役割を担う事業に携わることになった。

 内容を端的にいえば、専用アプリのプラットフォームを利用して、アスリートと特別な体験ができる企画をライブオークションに出品し、そのファンや支援者を結び付けて収益を上げていくというもの。北島氏の担う役割は、その俎上にあげるアスリートの提案とアスリートが実施するプレミアムな体験の企画を一緒に考えることである。

「今回、知人を通じて、ミーアンドスターズの方と知り合い、半年近く意見交換をして関わることになりました。これ、という形があるわけではなく、クラウドファンディング(アイデアや企画を持つ立案者がその実現のために、専用のインターネットサイトを通じて、不特定多数の人々に呼びかけ、賛同者から広く資金を集める方法)のように、アスリートが海外遠征や合宿などの競技活動のための資金を集める目的で企画を実施することもあれば、アスリート自身がやってみたい企画に対して企業がスポンサーもできる。必ずしも現役のアスリートに限定する必要はありませんし、逆に憧れのアスリートに直接指導を受けたいという希望者がいれば、その両者を結び付けたりするなど、いろんな形があってもいいと思っています。

 海外では、アスリートがそうした人と人との交流を積極的に行なっていますし、これからの時代は、ただ競技に打ち込んで成績を残すだけでなく、現役時代から引退後の人生につながる活動をすることで、自身の付加価値を高めていくことが求められてくる。メダルを獲ったらすごいね、よかったね、で終わるのではなく、その次のステップを作っていければと思います。もちろん、良い意味で、です。その点は事業だからこそ、悪い方向にいかないよう、バランスを取ることも自分の役割です」

 競技において好成績を残すことはアスリートにとって最大の目標ではある。だが、それはあくまで一面であり、例えばこのプラットフォームを使って競技以外の一面を見せることで、競技以外の部分でも付加価値を生み出し、人間としての幅を広げていくことができる――それは、大学時代に日本の競泳界で初のプロスイマーとなった北島氏が長い競技生活の中で体験してきたことでもある。

 今回の事業のみならず、北島氏は自身の経験、そして今の自分が考える日本スポーツ界の将来像を掛けあわせながら、後輩アスリートたちの人生をサポートしているのかもしれない。

文◎牧野 豊

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