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2020-10-30

最良の指導方法を見つけるために、人を育てるプロが取り組んでいること/伊藤拓摩(プロバスケットボールチーム長崎ヴェルカGM)×鈴木良和(バスケットボールの家庭教師・エルトラック代表)

伊藤拓摩さん(右)と鈴木良和さん



様々な本を読み、様々な考え方に
触れることがコーチングに役立つ

鈴木  伊藤さんが監修された本(『コーチとは自分を知ることから始まる』)でも、コーチとしてどうしたいか、自分を見つめるところから指導がスタートすると書かれていますね。

伊藤 この本を読んでいて響いたところが、まずその部分です。自分がどういうコーチを目指したいのか、自分はどういう人間なのかといったことを理解しないと、人を教えることなどできない。コーチは性格的に人に教えたい思いが強いので、人をどうするかばかりで、自分自身に焦点を当てて振り返ることを忘れがちだと思います。『なぜ自分がコーチをしているのか』を知らないと、どこかで壁にぶつかるし、選手に何かを伝えたとしても、口先だけで言っているようにしか聞こえない。この本は答えが羅列してあるのでなく、『自分を見直してごらん』という本なので、多くのコーチにとって自分を振り返るきっかけになると思います。著者のデニー・カイパーさんがバスケットのコーチなので、内容的にはバスケットの例が多いですが、あらゆる競技のコーチが読んで、感じる部分があるはずです。僕のおすすめの読み方は、マーカーでハイライトをつける時に、毎回色を変えること。「この時はこんなことに悩んでたのか」といった変化に気づけると思います。

鈴木 僕が一番影響を受けた指導者は大学時代に教わった日高哲朗先生ですが、日高先生から何を学んだかと考えると、バスケットの技術や戦術はもちろんですが、何より人としての魅力、影響力でした。考え方や哲学がしっかりしている人は人間力も大きくなって、だから影響力が大きくなり、コーチとして成功できるのだ――ということを、この本を読みながらあらためて感じました。

ーほかにも影響を受けた本、指導者におすすめの本を教えてください。

鈴木 僕が一番影響を受けたのは、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー/著)と、ピーター・ドラッカーの『マネジメント』、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ/著)です。指導者としても、会社経営者としても、この三冊から大きな影響を受けました。指導者という観点でこれにつけ加えるなら、ジョン・ウッデンの本ですね。人生が変わったなと感じます」

伊藤 僕が最初に影響を受けたのは、フィル・ジャクソンの『Sacred Hoops』(邦訳『シカゴ・ブルズ勝利への意識革命』)だと思います。その後、フィル・ジャクソンの本はすべて読みました。日本のバスケット関連の本では、鈴木さんの『バスケットボールの教科書』シリーズは4巻とも読んで、すごくわかりやすかった。何かいい本はありませんか? と聞かれたら、まずこれをおすすめしています。『ビジョナリー・カンパニー』は僕も読んで、コーチングにつながる本だと思いました。

鈴木 本は、その人(著者)の考え方を知る上でもっとも時間効率のいい方法です。本をたくさん読むことで、それだけ多くの人の考え方を知ることができる。経営者もコーチも意思決定、判断が大事ですが、選択肢がひとつしかない人は、判断する必要がないから、それが本当にいい方法かと問われると説得力がありません。同様に2択よりも10個の選択肢から選んだ人のほうが選択の質は高まるし、説得力ある意思決定ができる。だから指導者はいろんな本を読み、いろんな考え方を知って、その中で『自分はこの考え方です』と意思決定することが、信念を強め、人間力を大きくすることにつながると思います。

取材・構成/直江光信

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