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2020-10-30

最良の指導方法を見つけるために、人を育てるプロが取り組んでいること/伊藤拓摩(プロバスケットボールチーム長崎ヴェルカGM)×鈴木良和(バスケットボールの家庭教師・エルトラック代表)

伊藤拓摩さん(右)と鈴木良和さん



選手の強みだけでなく、自分の
強みは何かを知ることが大切


伊藤 『コーチとは自分を知ることから始まる』では、コーチが選手はもちろん、自分の強みを知ることが大事とも書かれていて印象的でした。鈴木さんはご自身で会社を経営されていますが、経営者としての自分の強みは何だと考えていますか。

鈴木 これいいよ、と誰かにすすめられたら、素直にやってみる。「絶対こうじゃなきゃダメ」と凝り固まるのではなく、いいものは柔軟に取り入れる。だからいまの会社も、『7つの習慣』と『ビジョナリー・カンパニー』とドラッカーの本に書いてある通りにやっています(笑)。

伊藤 鈴木さんはいろんなことを取り入れて、毎回会うたびに「こんなことをやられているのか」と感心します。どんどん進歩している。ちなみに鈴木さんは、「経営者としてもっと勉強しなければいけないな」と感じたきっかけなどはありますか。

鈴木 親しかったり応援してくれたりする保護者が、急に厳しい言葉を言ってくれたりしたことがあって、そこで気づかされましたね。僕の配慮が足りなくなっていた時、普通なら何も言わず離れていくことが多いと思うんです。それで自分は気づかないまま悪い方向へ進んでいきがちなのですが、僕には自分が言われたくないことを言ってくれる人が近くにいた。ここは恵まれていたと思いますね。そこで『責められた』ととらえるのではなく、『神様が“気づけ”と言ってるんだ』ととらえて、ふと我に返る。そういう時にまた本を振り返ったり、ということもあります。

伊藤 そうした「メンター」を持つことの大事さが、『コーチとは自分を知ることから始まる』でも、書いてあります。僕もいまはいろんな人に学びたいと思っていて、違う分野の人も含めて多くの人に話を聞くようにしています。これまでの僕は、自分が学びたいと思う人しか見てこなかった。最近は道を歩くだけでも学べるようになりたいと思って、いろんな人に話を聞くよう心がけています。

鈴木 今度は、僕が伊藤さんと一緒に日本代表で仕事をしたときに感じたことを話しても良いですか(笑)。その時に伊藤さんに対して僕が感じたのは、吸収力のあるスポンジなんだけど、中身がすごく詰まっている、ということです。いろんなものを取り入れる器の大きさがあって、その中に自分の芯もちゃんとある。体験を伴って身につけたものを持っている人って、感覚的にわかりますよね。いまの若い人は、多くの情報を見聞きしているからロジカルに語らせたらそこそこ説得力のあることをしゃべれます。でも自分で10年かけてやったというような体験を伴っていないから、言葉に重みがない。伊藤さんは自身で体験して作り上げてきた自分がちゃんとあるし、一方でいろんな影響を受け取ることもできる。そこが魅力的な人だなと思ってました。

伊藤 自分では、現状に満足しない、学びたいという姿勢が強みだと思っています。悲しいことやストレスになることがあっても、「これが何かの学びにつながるんじゃないか」と前向きにとらえられる。だから、ストレスになることがあると、すぐに「どうやって学びに変えようか」となるんです。本当はしっかり受け止めて、とことん落ち込むことも必要なのかもしれませんが、せっかちだしそこまでの強さはないので(笑)、1秒でも早く切り替えたい。そこは逆に、弱みなのかもしれませんね。

【プロフィール】
伊藤拓摩(いとう・たくま)
1982年生まれ、三重県鈴鹿市出身。中学卒業と同時にアメリカに留学。モントロス・クリスチャン高校4年時にバスケットボール選手からマネジャーに。卒業後に同校にてアシスタントコーチを務める。バージニア・コモンウェルス大学卒業。2009~16年に、トヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)のアシスタントコーチ、アソシエイトヘッドコーチ、ヘッドコーチを歴任。17〜18年日本代表サポートコーチ兼通訳。18年よりアルバルク東京・テクニカルアドバイザーに就任と同時にNBA Gリーグ所属のテキサス・レジェンズにて研修、アシスタントコーチを務める。20年9月、プロバスケットボールチーム・長崎ヴェルカのGMに就任。

鈴木良和(すずき・よしかず)
1979年生まれ、茨城県出身。千葉大学大学院在学中の2002年に「バスケットボールの家庭教師」の活動を開始。株式会社ERUTLUCを立ち上げ、小・中学生を中心に、高校生から幼稚園児までバスケットボールの普及・強化に努める。「なりうる最高の自分を目指そう」を理念とするジュニア期コーチングの専門家。日本バスケットボール協会公認A級コーチ。日本バスケットボール協会U12・U13ナショナルキャンプヘッドコーチ、男子日本代表のサポートコーチも務める。『バスケットボールの教科書』シリーズなど著書多数。


コーチング・クリニック 12月号 | BBMスポーツ | ベースボール・マガジン社

森川稔之(横浜国立大学女子ラクロス部 アスレティックトレーナー、東京スポーツ・レクリエーション専門学校 講師、一般財団法人スポーツアライアンス 理事) 金光良貴(株式会社JPEC代表取締役、パーソナルトレーナー) 平 純一朗(Medical Fitness Ligare GM、L-Fit 代表) ――運動連鎖に着目して最短でグロインペインを改善する―― 唐澤幹男(株式会社Total Body Make 代表取締役) 桑原弘樹(NESTA JAPAN PDA、桑原塾 主宰) 『コーチとは自分を知ることから始まる』刊行記念 特別対談 伊藤拓摩(株式会社リージョナルクリエーション長崎)×鈴木良和(株式会社ERUTLUC) 平野厚雄(一般社団法人日本パワハラ予防委員会 代表理事) 現場に生かせる選手・コーチに役立つ医科学講座(99) 柳谷登志雄(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 准教授) 河合智則(D.C、M.S、米国認定ドクターオブカイロプラティック) ※「"人"を育む」「スポーツを支える人々」「最新 筋肉の科学」「幼少期に育む『運動能力×非認知能力』プログラム」「ボールの転がるままに」「突撃!研究室訪問」は休載です。 近年、コンビニエンスストアに高タンパク質食品が並ぶなど、 しかし、選択肢が増えすぎて、結局何を取ればいいのかわからないという戸惑いの声も。 性別や年齢、運動量によって必要なタンパク質の量は、脂質は悪者なのか、 減量中も炭水化物はとるべきか、など...。身体の土台である3大栄養素について考える。 ◇現場に生かせる 選手・コーチに役立つスポーツ医科学講座 ご購入はこちら 定期購読はこちら

取材・構成/直江光信

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