アメリカンフットボールの関東大学1部TOP8は、11月28日、東京・調布のアミノバイタルフィールドで、順位決定戦2試合を行った。7位決定戦は、共にここまで全敗の立教大学ラッシャーズ(2敗)と中央大学ラクーンズ(3敗)が対戦。立教大が試合最後のプレーで逆転フィールドゴール(FG)を決めて中央大を破り、7位となった。
しかし1年生QBの宅和は、パスを狙ってボールを持ち過ぎる悪い癖が出た。ファーストダウン、セカンドダウンはパス失敗。サードダウンは逃げ回った挙句にサックされてしまった。残っていた2回のタイムアウトの1回はここで使わざるを得なかった。
残り時間は19秒、フォースダウン10ヤードのギャンブル。絶体絶命のピンチに、宅和が、QBとして今季一番の底力を見せた。パスラッシュをかわして左に流れると腕を振った。同じ1年生のWR神津颯哉へ20ヤードのパスが決まった。残り時間がほとんどない。立教大オフェンスは、急いでセットすると再び宅和がパス。WR吉田亮雅がタックルされながら必死で捕球し、倒れ込んだ。立教大は、さらに20ヤードを前進、そして残り1秒でタイムアウトを取った。
【立教大 vs 中央大】第4クオーター残り10秒を切って、タックルされながら必死でパスを捕球する立教大WR吉田=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
逆転をかけたFGトライ、47ヤードと距離はあったが、文字通り、強い追い風が吹いていた。K中山がしっかり蹴ったボールはポストの間を抜けていった。30-28。サイドラインの選手やコーチが飛び跳ねて喜んだ。劇的な逆転勝利が、1年間の総決算となった。
今季の立教大は、不運だった。第2節、早稲田大学との一戦が、早大関係者の新型コロナウィルス感染症感染のために中止になり、この段階で、甲子園ボウルへの道が断たれた。前の試合から、OLとDLの両面で先発をしている大黒柱、三隅悠司主将でさえ「正直、心が折れそうになった」という。
【立教大 vs 中央大】立教大4年生の三隅主将にブラインドサイドを守られてパスを投げる1年生QB宅和=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
三隅主将は体を張って宅和のブラインドサイドを守り続けたLT(レフトタックル)でもあった。宅和は、そんな先輩たちのために、勝利のおぜん立てをした。
この試合では、パスもランも、調子が良いと感じていた宅和だが、最後のドライブは別だった。
「実際のところ、練習で2ミニッツ(オフェンス)をやっていても、1回もTDを取ったことが無かった」という。サードダウンでサックされたときは「もう駄目かな」と考えた。しかし、「今まで4年生の方たちが頑張ってきてくれたことを思うと、やはり決めなければ」と奮い立った。
今季は開幕の明治大戦から先発、ほぼ一人でQBを務めてきた。身長182センチの大器は、試合を重ねるごとに成長してきた。
この日、サードダウンコンバージョンとフォースダウンギャンブルは6/8という勝負強さを見せた。最初のTDも、スナップが乱れてジャグル、プレーが崩れた後のスクランブルでの快走だった。
「練習では、コーチから『しっかりシチュエーションを考えろ』と言われ続けてきました。1戦目、2戦目はそれができていなかったのが、3戦目の今日は、やっと意識できたかなという感じです」という。
「今季は、コロナもあったので、自分を使ってもらえた部分がある。来季はもっと自分がチームを勝たせるという意識を持ちたい」と話す宅和。今季の早大でエースQBを務めた兄・真人とは「QBの技術についていつも話しています」という。
三隅主将は、試合後のハドルで「こんな勝ち方ができて、最高だけれども、来年はもっと上でこういう勝ち方をしてほしい。できれば甲子園ボウルで」と選手たちに語りかけた。それが実現できるかどうかは、若き司令塔がどれだけ成長するかにかかっている。
【立教大 vs 中央大】第1クオーター、立教大QB宅和がスクランブルから73ヤードを走ってTD=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
「精一杯やった」中央大 迷いなく決めた2ポイントコンバージョン
試合を通じて、立教大に主導権を握り続けられた中央大。キックオフのリターン時に攻撃権を奪われるミスが2度出て、それがFGとTDという形での失点につながった。
強い北西の風が吹き続けた中で、いずれも立教大が逆風となるクオーターでの中央大の失点だった。
一時は17点差とされながら、中央大は決して焦らなかった。2年生のQB小島が、正確なパスを決めてファーストダウンを重ね、4年生RB大津のTDでフィニッシュした。
【立教大 vs 中央大】焦ることなく、冷静にパスを決め続けた中央大QB小島=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
第4クオーター残り44秒、大津がこの試合3本目のTDで27-28とすると、中央大サイドラインは迷わず2ポイントコンバージョンを指示した。
「引き分けでは意味がない。もしそういう状況になったら、2ポイントを狙うと、試合前に選手たちと話し合って決めていました」(須永恭通・中大ヘッドコーチ=HC)。
右に流れた小島は、4年生WR伊藤圭吾へ狙い通りパスをヒット、サイドラインは盛り上がった。
最後の最後にもう一度どんでん返しがあったが、中央大の須永HCは「精一杯やったと思います」と選手たちを称えていた。
【立教大 vs 中央大】第4クオーター11分、中央大RB大津が、タックルされながら体をひねってTD、1点差とする=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
◆立教大・中村剛喜監督
・FGレンジまで行ったら、逆転できると思っていました。キッカーの中山には絶大の信頼を持っていました。
・しんどい試合でした。他人の試合を見ているのなら、こんな展開は本当に面白かったかもしれませんが。中央さんも、ウチも1年間、こんな状況の中でやってきて。細かいことを抜きにして、意地のぶつかり合いだったと思う
・どういう状況になっても、前を向いて挑戦し続けるという目標を持っていたので、それが今日の試合では、できたということ。すごく良かったと思う。
・こんな状況の中で、選手たちは1年間本当によく頑張った。「お疲れ様」というだけです。
【立教大 vs 中央大】試合後、選手たちに語り掛ける立教大・中村監督。後方右は三隅主将=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
◆中央大・須永恭通HC
・最後のFGを含め、強い風はいろいろ影響しましたが、お互いに条件は同じで、結局は、立教さんのオフェンスに試合を通じて良い形で攻められたと思います。
・久しぶりに学生の指導をして、毎日毎日選手たちと顔を合わせて、成長する姿を見ることができた。やりがいを感じました。
・中央大のチームの中に入って強く感じたのは、4年生がとても良かったということ。
・今日の試合も、キッキングがミスしたけれど、オフェンスがよくやったとか、誰が良くて誰が悪かったとか、4年生はまったくそんなことは考えていない。チーム全体としてのミスであり、全体の責任という風にしか捉えないと思います。そういう意味で凄く良い4年生でした。指導する大人として、勝たせなければいけなかったと思います。
【立教大 vs 中央大】激戦の末、敗れた中央大の樋口主将と須永監督=2020年11月28日、撮影:小座野容斉
【写真・文/小座野容斉】
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