具体的かつ明確な言葉にして伝える――常に状況を見る意識を習慣化させるのは簡単ではないようにも思えます。谷 「見る意識」に関しては、ただ単に「周りを見なさい」と伝えるのではなく、選手の状態に応じて具体的に伝えています。まずは、「自分の近くにいる相手や味方を見る」ように意識させ、そこからさらに「2人目を見る」、「3人目を見る」と、段階的に増やしていくのです。プロで中心になるくらいの選手は、ピッチを俯瞰できると言います。同じような感覚を高校生の段階で身につけるのは難しいかもしれませんが、1人でも多くの選手が見えるようになるだけで、選択肢が増えて落ち着いたプレーができるようになると期待しています。
――以前の練習で、実際に「まずは1人目を見よう」といった具体的なアドバイスを伝えていたのが印象に残っています。谷 これまでも判断を重視したトレーニングを行なってきましたが、ここ数年は「言語化して、より明確に伝えたほうが良い」と考えるようになりました。アドバイスなどをしっかりと言語化して明確にしようとすれば、指導者として何を伝えれば良いかがはっきりとします。選手目線で見ても、求められていることが分かりやすくなると思います。例えば、トラップの練習で「ボールの回転を止めよう」、「ファーストタッチで右足のすぐ前に止めよう」などと具体的に指示されれば、理解しやすく、実行しやすくなると思います。具体的なアドバイスがあると、「今の状況なら足元にピタリと止めるトラップで良いな」、「相手が左から来ているので、右にパスを出そう」といった具合に考えやすくなります。
今の子たちはスマホなどで手軽に情報を得られます。ウェブサイトなどで文字を読んで理解する習慣がついているため、具体的な言葉にしたほうが伝わりやすいのです。
――判断を伴ったテクニックは、どのようなトレーニングで伸ばしていますか?谷 トラップに関しては、まずは基本である「止める、蹴る」をドリルに近い対面パスで徹底的に取り組ませます。それから、ゲームに近いポゼッション練習によって、相手がいる状況でのプレーを磨きます。そして、一日の最後にはその日の練習で学んだ技術を試すために、「11 対11」のフルコートゲームを必ず全員で実施します。
勝敗を伴ったメニューを行なうことが重要で、1人で黙々とこなすだけだと、ミスしても誰も不利益を被らないので、緊張感が生まれません。勝敗を伴ったメニューだと、指導者が細かく指示しなくても、勝つためにどう動くべきかを選手が自分で考えるようになります。
持っている技術をいつ使うかに関して、日本人よりも海外の選手のほうが長けているのは、サッカーに人生がかかっているケースが多く、勝敗が重要になるので、より正しい判断を求められるからではないでしょうか。ボール扱いがうまいだけでなく、正しい判断で勝利に導くプレーができる選手が多くの人に評価されるのだと思います。神戸弘陵OBの江坂任選手(柏レイソル)は、うまさを結果につなげられる選手でした。
※後編に続く
プロフィール谷純一監督(神戸弘陵学園高校/兵庫県)1973年5月31日生まれ、兵庫県出身。MFとしてプレーし、神戸弘陵学園高校から大阪体育大学に進んだ。教員となり、御影工業高校と神戸弘陵学園高校でコーチを務めたあと、2006年に神戸弘陵学園高校の監督に就任した。13年に13年ぶりとなる全国高校サッカー選手権大会出場を果たしたほか、15年には高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグWESTへの昇格も果たした。江坂任(柏レイソル)や田平起也(セレッソ大阪)など、Jリーガーも育てている
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