米カレッジフットボールの年間王者を決めるプレイオフ(College Football Playoff =CFP)は、現地1月11日、フロリダ州マイアミのハードロック・スタジアムで決勝戦が行われ、アラバマ大学がオハイオ州立大学に完勝して3年ぶり全米王者となった。アラバマ大のニック・セイバンヘッドコーチ(HC)はルイジアナ州立大時代も含めて、7回目の全米優勝。アラバマ大の伝説的名将、ポール・ベア・ブライアントの6回を上回り、史上最多優勝HCとなった。
CFP決勝(2021年1月11日、マイアミ・ハードロックスタジアム)
アラバマ大学○52-24●オハイオ州立大学
序盤は点の取り合いとなった。第1クオーター、アラバマ大はRBナジ-・ハリスが先制のランTDを決めると、オハイオ州立大も同RBマスター・ティーグのランTDで同点とした。第2クオーター、アラバマ大はQBマック・ジョーンズがWRデボンテ・スミスにTDパスを決めたが、オハイオ州立大もRBティーグがエンドゾーンに走り込み、再び同点とした。
しかし、オハイオ州立大がアラバマ大についてこれたのはここまでだった。アラバマ大は、ここからQBジョーンズが、RBハリスに1本、WRスミスに2本、合計3本のTDパスをヒットし35-17とオハイオ州立大を突き放した。
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】アラバマ大のRBハリスがディフェンスのタックルを飛び越える=2021年1月11日、photo by Getty Images
アラバマ大は後半も、ジョーンズのパス、ハリスのランでTDを奪い得点を積み重ねた。最終スコアは、52点。2014年から始まった現行形式のCFP決勝戦としては最多得点となった。
トータルヤードは341と641、ファーストダウンは19と33、タイムオブポゼッションは22分34秒と37分26秒と、すべてアラバマ大が大差で上回った。
オフェンス・ディフェンスの双方から選ばれるMVPは、アラバマ大のWRスミスとDTクリスチャン・バーモアが受賞した。
スミス、ハリス、ジョーンズ…オフェンスのスターが縦横無尽WRデボンテ・スミス、RBナジ-・ハリス、そしてQBマック・ジョーンズという、NFLも注目するスタートリオを擁したアラバマ大が爆発的なオフェンス力で、オハイオ州立大を圧倒した。
1月5日に、今季のハイズマントロフィーを受賞したばかりのスミスは、前半だけで12回のパスキャッチで215ヤード、3TDという驚異的なパフォーマンスを見せた。後半始まって直ぐにコンタクトプレーで右腕の指を痛めたため、試合からは引き下がったが、前半のスタッツだけで、MVPを受賞した。
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】オフェンスのMVPとなったアラバマ大のWRスミス=2021年1月11日、photo by Getty Images
ハリスも素晴らしかった。この試合ではランだけでなくパスレシーブとランアフターキャッチでも能力を発揮。合わせて158ヤード3TDを記録した。
そして、QBジョーンズは、今季ベストとなるパス464ヤード、5TD、成功率80%という成績を残した。
アラバマと言えば、ディフェンスのチームだ。しかし、セイバンがHCに就任して以来、オフェンスが一段と強化された。WRフリオ・ジョーンズ(ファルコンズ)、アマリ・クーパー(カウボーイズ)、デリック・ヘンリー(タイタンズ)というNFLのスター選手も多数輩出するようになった。
2010年代に入ってからはスプレッドオフェンスを導入し、ハイスコアフットボールに対応するようになった。その結果、昨年のトゥア・タゴバイロア、転校生とはなったがジェイレン・ハーツと、QBでもアラバマ大からドラフト上位指名される選手が出るようになった。
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】今季最高のパス464ヤードを記録したアラバマ大のQBジョーンズ=2021年1月11日、photo by Getty Imagesその集大成が今季だったように思える。これほど、遂行力と確実性を同時に持った全米トップの選手がオフェンスの各ポジションに揃ったことはない。
RBハリスはラン獲得距離(1466ヤード)が全米3位、ランTD数(26)が全米1位。
WRスミスはパス獲得距離(1856ヤード)、TDパスレシーブ数(23)、パスレシーブ回数(117)が全米1位。
QBジョーンズはパス獲得距離(4500ヤード)、パス成功率(77.4%)、パサーズレーティング(203.1)が全米1位、パスTD数(41)が全米2位。成功率とレーティングは今までの記録を更新して史上最高となった。
3人そろってAP通信社が選出するオールアメリカン・ファーストチームに選出されている。QBという特殊なポジションであるジョーンズはともかく、スミスとハリスは、来週からNFLのチームでプレーオフに参加しても、普通にプレーできそうにさえ見える。
アラバマ大の伝統として、OLもとても大きく強い。LTのアレックス・レザーヘッド、この試合はプレーしなかったがCランドン・ディッカーソンもオールアメリカンファーストチームで、NFLでも将来を嘱望されている。ディフェンスはどうかと言えば、この試合のMVPのDTバーモア、LBディラン・モーゼス、CBパトリック・サーティン(父は元ドルフィンズのオールプロ)といった面々がそろう。
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】優勝を決めて喜ぶアラバマ大のQBジョーンズ=2021年1月11日、photo by Getty ImagesQBジョーンズが語った「我々は、(カレッジフットボールで)史上最高のチームだと思う」という言葉は決して傲慢には聞こえない。アメリカの複数のメディアは今季のアラバマ大を、「セイバンHCが指揮したチームの中では最強」「CFP移行後の7年間では最強」という評価を下している。
伝説の名将の記録を上回ったセイバンHC「私にとってこれは究極のチームだ」。
カレッジフットボールでは半ば神格化されたアラバマ大の名将ブライアントの全米王者6回※という記録を塗り替えたセイバンHCは、最大限の賛辞を呈した。
「このチームは、今まで私が監督してきたどんなチームよりも一体感があった。彼らは今シーズンを通じて、本当に多くのことをに耐え忍び、打ち勝たなければならなかった。彼らは見事にそれを成し遂げた」
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】7度目の全米王座を獲得、伝説の名将ブライアント越えを果たしたアラバマ大のセイバンHC=2021年1月11日、photo by Getty Images確かにアラバマ大のタレントは傑出している。だが、タレントが集まれば勝てるほど、フットボールは単純なスポーツではない。優れたリクルート力で集めた選手の力を伸ばし、勝利に向けて束ねたセイバンの指導力も賞賛に値する。
オハイオ州立大、RBサーモンを最初のプレーで失うオハイオ州立大についても触れておきたい。この試合は一方的な展開となったが、ディフェンス面はともかく、オフェンスではもう少し食らいついて行ける可能性はあった。
大きな誤算だったのがRBトレイ・サーモンのファーストプレーでの負傷退場だ。過去2試合でラン524ヤードという爆発的な走りを見せたサーモンが、オハイオ州立大のオフェンスの最初のプレーでいなくなってしまった。
準決勝の「シュガーボウル」クレムソン大戦で6TDパスというパフォーマンスを見せたQBフィールズだったが、サーモンのパワフルな走りが強力な援護射撃になったからこそ。
アラバマ大ディフェンスにしてみれば、QBフィールズだけをケアすればよく、しかも前半で大量点差となったため、多少ゲインされても気にせずに済んだ。
【アラバマ大 vs オハイオ州立大】孤軍奮闘したオハイオ州立大のQBフィールズ=2021年1月11日、photo by Getty Images
圧倒的に不利な状況下でキャッチアップとなったフィールズだが、インターセプトなど試合を壊すようなプレーがなかったのは、評価できる。次のステージに進む準備はできているだろう。12月にNFLワシントン・フットボールチームを不名誉な形で解雇された先輩、ドゥエイン・ハスキンスの轍は踏まないと信じたい。
ここで名前を挙げた選手が、今年4月のNFLドラフトで何人上位指名されるのだろうか。そして何人が1年後のNFLプレーオフで活躍するのだろうか。それを楽しみにしている。
※カレッジフットボールは1998年に「BCSナショナルチャンピオンシップ」が始まるまで、ランキングで王座を決めていた。BCS選手権は2014年から現行のCFPに引き継がれている。