米プロフットボールNFLで、また大きな動きがあった。現地2月18日、フィラデルフィア・イーグルスのQBカーソン・ウェンツがインディアナポリス・コルツにトレードされることが決まった。公式サイトNFL.comやスポーツ専門局ESPNを始めとする、複数のメディアが速報で伝えた。
交換条件は、コルツの2021年のドラフト3巡(全体85位)指名権と、条件付きで変更の可能性を持つ2022年の2巡指名権だという。
NFLネットワークのレポーター、マイク・ガラフォロ氏の情報では、ウェンツが、2021年シーズンにコルツのオフェンスプレーの75%以上に出場か、もしくは70%以上に出場し、かつコルツがプレーオフに進出した場合は、2022年の2巡指名権が1巡に変更となるという。
ウェンツはイーグルスと2019年に4年1億2800万ドル(約135億円)の大型契約を結んだが、今回のトレードで、イーグルスには、支払い保証額を契約年数で割った残り2年分、3380万ドル(約35億7000万円)がデッドマネーとして、2021年のサラリーキャップに計上される。
ルーキー年から活躍も、突然の成績下落
ウェンツは1992年12月生まれの28歳。カレッジフットボールでは、下位カテゴリーFCSのノースダコタ州立大出身だが、196センチ、108キロと大型で、冷静かつ強肩、機動力もあるとして2016年ドラフトの目玉選手となった。
全体2位でイーグルスに入団した後、ルーキーシーズンから全試合に先発した。2年目の2017年には、13試合でパス3296ヤード、33TD、7インターセプトという活躍を見せチームも11勝2敗と快進撃を見せた。
しかし、第14週のラムズ戦で負傷退場すると、残りシーズンを欠場した。イーグルスはその後、控えQBニック・フォールズの活躍でスーパーボウルを制覇したが、ウェンツはプレーすることはなかった。
2018年は前年の負傷の影響で、序盤は出場できず、シーズン終盤でも負傷で欠場した。
2019年シーズン開幕前に、4年契約を結んだウェンツは全16試合に出場、チーム史上初めてパス4000ヤードを超え、27TD、7INTの活躍を見せた。しかし、プレーオフ初戦のシーホークス戦で後頭部にヒットを浴びて序盤で退場、イーグルスはそのまま敗れていた。
2020年、ウェンツは深刻なスランプに陥った。パス成功率がプロ入り後初めて60%を割り込み、インターセプトが倍増した。
コルツへトレードが決まった、イーグルスのQBウェンツ=photo by Getty Images
オフェンスが機能しなくなったイーグルスは、シーズン中盤から4連敗。ウェンツに替えてルーキーQBのジェイレン・ハーツを送り込んだが、なかなか勝ち星にはつながらず、二桁敗戦でシーズンを終えた。この過程の中で、QB出身のダグ・ペダーソンHCとウェンツの関係に亀裂が生じた。
シーズン終了後の1月11日、ペダーソンHCが解任され、ウェンツは残留するという見方も一時的に広がった。
しかし、1月末の「ブロックバスタートレード」ライオンズのQBマシュー・スタフォードとラムズのゴフの交換が決まった後、「次のトレードはウェンツ」という情報が、再び米のスポーツメディアの間で流れていた。
先発降格となったイーグルスのQBウェンツ(右)と、ルーキーQBハーツ(背番号2)=photo by Getty Images
後継はハーツ有力も、QB指名の可能性
イーグルスの後継QBは、現時点ではハーツが有力だ。
アラバマ大、オクラホマ大と、カレッジトップ級の強豪2チームでQBを務め、パスだけでなくランにも優れた能力を持つ。昨年のドラフト時には、一部の評論家から「NFLではQBとしては通用しないのでWRに転向すべきだ」と揶揄されたが、QBとして評価したイーグルスは2巡指名でハーツを入団させた。
ハーツはシーズン後半4試合に出場し、勝敗こそ1勝3敗だったが、パス1000ヤード、ラン300ヤードを超す成績で、オフェンスをある程度、活性化することに成功はしている。
オクラホマ大は、2018年ルーキーのベイカー・メイフィールド(ブラウンズ)、19年のカイラー・マレイ(カーディナルス)と、2年連続でNFLの先発QBを産んできたが、20年入団のハーツが先発QBに昇格となれば3年連続ということになる。
一方で、ハーツのパス成功率やインターセプト率は、絶不調だったウェンツとそれほど変わらない数字だったのも事実で、イーグルスが全幅の信頼を置いているわけではない。
イーグルスは今年のドラフトでは1巡6位の指名権を持っている。これを使ってQB指名の可能性もあるだろう。
ウェンツの再起へ、カギ握るパスプロテクション
一方、コルツにトレードされたウェンツは、今季で引退したフィリップ・リバースの後継として期待される。
2019年シーズン直前に、大黒柱だったQBアンドリュー・ラックが突然の引退。以来毎年QBが変わってきたコルツだが、ウェンツがオフェンスの新たな救世主となるのか。
良い条件はいろいろある。まず第一に、コルツのHCは、ウェンツにとってはルーキー時のオフェンスコーディネーター、フランク・ライクだ。
カレッジでは、決してレベルの高い環境でプレーしていたわけではないウェンツが、NFL入り後、順調に成功を重ねてきたのは、ライクの指導と戦術に依るところが大きかった。
また、ウェンツの絶不調の端緒となったのは、開幕のワシントンとの対戦で、8サックを浴びたことだった。最終的には、今季NFL最多となる50サックを浴びた。今のコルツのOL陣は強力で、パスプロテクションが良い。QBサックは21しか許していない。更に、RBも駒がそろい、強いラン攻撃も期待できる。ウェンツが再び能力を発揮できる環境は整っている。
イーグルスのQBウェンツ。今季突然に成績を落とした=photo by Getty Images
◇ ◇ ◇
大型、強肩で、機動力も兼ね備えたQBが、20代前半から大活躍しながら、突然に成績を落とした事例といえば、ミネソタ・バイキングスのダンテ・カルペッパーを思い起こす。
1999年ドラフトで入団したカルペッパーは2年目に先発に昇格すると、その後の5シーズンで3回プロボウルに選出された。
2004年にはパス4717ヤード(リーグ1位)、39TD、11INT、ラン406ヤード2TDという成績を残し、将来の殿堂入りも有力だと思われた。
しかし、翌2005年、突然成績が落ち込み、インターセプトが激増した。その挙句、シーズン途中でヒザを負傷して、IR入りしてしまう。
リハビリ中のはずが、チームの面々と乱痴気騒ぎを起こして起訴されるなど、一転トラブルメーカーになってしまったカルペッパー。翌年のドルフィンズ移籍以降は、2度と元の輝きを取り戻すことはなく、レイダース、ライオンズと移籍を重ね、2009年を最後にNFLから姿を消した。
カルペッパーのQBとしての転落は、ターゲットにしていたWRランディ・モスが移籍でいなくなったことが理由とされることが多い。ただ、活躍していた時代から、自分で決めようとするあまり、QBサックが多く、ファンブルも多い、不安定なプレーが目についたのも事実だ。
ウェンツは、果たして再起なるのだろうか。
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