白鵬(寄り倒し)大栄翔春場所一番の目玉は照ノ富士の大関返り咲き挑戦。そして、8カ月ぶりに本土俵に上がる白鵬にも注目が集まった。初日の相手は先場所優勝の大栄翔。いきなり厳しい対戦となった。
先場所の大栄翔は西前頭筆頭で13勝を挙げて初優勝。戦後、西前頭筆頭で13勝した力士は4人いるが、全員が翌場所関脇に昇進している。しかし、大栄翔は小結止まり。おそらく西筆頭の11勝でも小結に上げていただろうし、これは不可解だ。
関脇は後半戦に横綱、大関と対戦するが、小結は序盤で当たる。小結に止めたことで、初日から白鵬との一番が組まれた。白鵬の調子が上がる前に引導を渡しておきたいという思惑があったのだろうか。
初場所は新型コロナに感染して休場した白鵬。臭覚異常以外は無症状だったそうだが、陰性に戻っても倦怠感があったりとか後遺症が残る人もいる。先場所の天空海も「無症状だったから大丈夫」と語っていたが、10敗を喫してしまった。白鵬がどこまで動けるのかも気になるところだ。
先場所のような大栄翔の立ち合いをまともに受けてしまったら、白鵬も吹っ飛ばされてしまうのではないか。そんなことを思いながら立ち合いに注目していたが、白鵬の立ち合いは厳しかった。
白鵬は右から張って左差し。立ち上がったのは同時だったが、大栄翔よりも踏み込みが速い。大栄翔が頭で当たって突き放すという一連の動作の前に左を差し込んでいた。そして、休む間もなく一気に前へ。
土俵際、大栄翔も右から突き落としにいったが、その勢いのまま両者が土俵を飛び出した。軍配は白鵬に上がり、物言いはつかず、決まり手は寄り倒し。白鵬は先場所の優勝力士を相手に、力の差を見せつけてやろうと気合が入っていたのだろう。白鵬の完勝だった。
久しぶりに白鵬の相撲を見て、改めて感じたのが、スピードと瞬発力。昔、琴錦が「オレに若ちゃん(琴ノ若)の体があったら横綱だし、若ちゃんにオレのスピードがあっても横綱だ」と言っていたことがあった。白鵬は大型力士でありながら、小兵力士以上のスピードがある。若いときは走らせても速かった。これは先天的なもので、稽古したからといって伸びるものではない。
白鵬の強さを再認識したところで、横綱の話を聞きたかったのだが、この日のリモート取材は拒否。敗れた大栄翔も拒否したので、両力士のコメントはなしです。白鵬は場所に集中したいときはしゃべらなくなるので、勝ち越すまでは無言を貫きそう。
この日、十両以上の取組で「寄り切り」の決まり手がゼロだった。これは決まり手制定以来、初めてのことだそうだ。
文=山口亜土