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2021-04-24

【ボクシング】寺地、“新たな試行のボクシング”でV8! 久田にダウン与え3-0判定勝利

寺地の右がヒット

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 24日、エディオンアリーナ大阪第1競技場で行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオン寺地拳四朗(29歳=BMB)が、挑戦者1位・久田哲也(36歳=ハラダ)に118対109、119対108、118対110の3-0判定で勝利。2回にワンツーでダウンを奪った寺地は、その後も久田をコントロールし、8度目の防衛に成功した。

 ロング、ミドルから放つジャブをベースに、寺地が絶妙な距離をキープし続け、クリーンヒットを奪い続けた。これが12ラウンド全般の印象だ。追いすがる久田は時折、迫力のある左右フックを振るってファンを沸かせたが、ハードヒットはついぞ奪えなかった。

間断なく、長短放たれる寺地のジャブ
間断なく、長短放たれる寺地のジャブ

 離れて寺地。近づいて久田。そんな予想が大勢を占めたが、この日の王者は、“無駄な距離”をカットしていたように思う。師事する加藤健太・三迫ジムトレーナーとともに、これまでのボクシングを見つめ直した。
 小刻みにリズムを取り、ややもすると浮足立ったようなフットワークから、「重心の位置を意識した」ボクシングへ。「パッと見ではわからないと思う」とふたりは表現していたが、zoomによる公開練習、そしてこの日のパフォーマンスでそのいったんが垣間見えた。
 右足、つまり軸足でコントロールするボクシングだ。スタンスを広く取り、ステップイン&アウトを大きく行うのが“拳四朗ボクシング”だったが、右足でバックステップの幅にブレーキをかけ、同時にキックする。股関節、体幹をより意識して放つブローは、威力を増す。2回にワンツーで奪ったダウンは、「ダメージがどれほどなのか計れなかった」(寺地)というが、その成果を表わすものだった。

2回、寺地の右でタフな久田がダウン
2回、寺地の右でタフな久田がダウン

 ダウンを奪っていながらも、4回終了時の採点は、ひとりがフルマークだったものの、ふたりは38対37のわずか1ポイント差。「採点は聞こえなかった」という寺地の感想は置いておき、「正直、辛いと思った」という加藤トレーナーの意見はそのとおりだと思う。

 離れすぎず、近づきすぎず。寺地はその後、この距離をいっそうキープした。これは実は久田の攻撃も生きる距離。だが、寺地は敢然とそこに踏みとどまり、ジャブをヒットし続け、右カウンターを再三突き刺し、左ボディブロー、左右アッパーカットで久田にダメージを与えていった。

久田の右が寺地を捉えるが、渾身の一撃はかなわず
久田の右が寺地を捉えるが、渾身の一撃はかなわず

 終盤に入っていき、久田は渾身の追い上げとスイングを見せた。寺地をのけ反らせるシーンもあった。が、寺地が絶妙に引きながらもらっているため、威力は半減された。追いかければ、巧みなサークリングで回避する。これは、誰もが予想できたかたちで、ここでも寺地に一日の長があった。

 7度の防衛までに作り上げた、長距離を保ってじわじわと相手を痛めつけるスタイル。個人的な意見を言わせてもらえれば、対久田にはそれがもっと効果を上げたのではないかとも思う。だが、中間距離に踏みとどまり、久田を大きく上回ってみせた新たなボクシングは、今後を見据える上で、さらにスケールアップする要素となりうる。

「防衛ももちろんですが、他団体のチャンピオンと戦いたい。いや、誰というわけでなく、王者全員を意識しています。4つそろえなきゃ」。

「ボクシングができて幸せです」。寺地はリング上で泣きじゃくった
「ボクシングができて幸せです」。寺地はリング上で泣きじゃくった

 昨年起こした自らの不祥事により、ボクシングを取り上げられてしまう可能性もあったが、「たくさんの方々のおかげで」チャンピオンのまま現役を続けることができた。「ボクシングをできる幸せ」をかみしめて、リング上、そして会見中も嗚咽を漏らした。まだできるならば、もっともっと高いところを目指していきたい──。自分にとって、ボクシングがどれだけ大切か、どれだけボクシングを好きなのか。そこを深く認識した寺地は、まだまだのびしろに溢れている。

「すべてやり切った」と語った久田は、引退を表明した 写真_加藤健太郎
「すべてやり切った」と語った久田は、引退を表明した 写真_加藤健太郎

 打たれても打たれても、執念と気迫で最後まで追いすがり、ファンを惹き込んだ久田は、「相手の技術が巧かった。やられました。でも、いまできることをすべてやり切ったので悔いはない」と引退を宣言した。

文_本間 暁 写真_松村真行

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