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2021-04-27

【泣き笑いどすこい劇場】第1回「ゲン担ぎ」その1

平成22年秋場所13日目、髪の毛を洗って出直し後、11勝目を挙げた嘉風。風呂上がりでさっぱりした様子

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力士にとって、直径4メートル55センチの土俵は晴れの舞台。汗と泥と涙にまみれて培った力を目いっぱいぶつけて勝ち名乗りを受け、真の男になりたい、とみんな願っています。とはいえ、勝つ者あれば、負ける者あり、してやった者あれば、してやられた者あり、なかなか思うようにいかないのが勝負の世界の常。真剣であればあるほど、思いがけない逸話、ニヤリとしたくなる失敗談、悲喜劇はつきものです。そんな土俵の周りに転がっているエピソードを拾い集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載していた「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。第1回から、毎週火曜日に公開します。

負けてほっと一息

横綱白鵬の連勝フィーバーで沸いた平成22(2010)年秋場所、兄弟子の豪風とともに最後まで優勝戦線に食い下がり、そろって敢闘賞を受賞したのが西前頭11枚目の嘉風だった。この嘉風、自己新の初日から7連勝としたが、連勝中、ゲン担ぎにしたのが頭を洗わないことだった。見方によってはなんとも不潔なゲン担ぎだが、頭を洗えば勝運が逃げると本気で信じている力士もいるのだ。

ところが、その年の秋は異例の暑さで、全力で体と体をぶつけ合う力士たちの汗のしたたり方は尋常ではなかった。そんな中、思いもしなかった7連勝もしたのだから、嘉風の頭は大変なことになってしまった。勝って引き揚げてくるたびに「痒い」「臭い」を連発。8日目、木村山に突き落とされ、ようやく連勝が止まると、

「これで頭を洗って、出直せます」

と、どこかホッとした表情を見せた。ゲン担ぎも考えてやらないと、こんなふうにあとでエライことになる。

ところで、どうして力士たちはこんなにゲンを担ぐのか。一生懸命、努力を重ねて、もうあとは神様か、何かにおすがりするしかない。そんな心境になったとき、身近な物や日常の行為に心頼みにするのがゲン担ぎではないだろうか。つまり、ゲン担ぎは、力士たちのお祈りなのだ。そんなゲン担ぎにまつわるエピソードを……。(続く)

月刊『相撲』平成22年11月号掲載

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