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2021-05-16

【ボクシング】悪童ルイス・ネリ陥落。ボディブロー浴び苦悶にのたうつKO負け

ネリ(右)は完全に力負け。フィゲロアのパワーに対応できない(Esther Lin/SHOWTIME)

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 5月15日(日本時間16日)、アメリカ・カリフォルニア州カーソンで行われた世界スーパーバンタム級統一戦で、WBA同級王者のブランドン・フィゲロア(アメリカ)がWBC同級王者、ルイス・ネリ(メキシコ)に7回2分18秒勝ち。左ボディブロー一撃でテンカウントを聞かせ、2団体チャンピオンとなった。

体格の不利跳ね返せず。フィゲロアのアタックにやり込められる

“日本の仇敵”ネリがキャンバスを這い、初めての敗北を味わった。

 その強打のサウスポーの黒い歴史を振り返る。2017年8月に初来日し、WBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)のV13(世界王座連続防衛日本タイ記録)を阻んだあとに薬物疑惑が発覚。処分に慎重なWBCの再戦指令を受けて翌年、再来日した時には体重超過。日本ボクシングコミッションから“永久追放”を言い渡された。もともと契約体重違反の常習で、いまだ秤が一番の難所だ。それでもリングに上がれば、巧さも発揮して勝ち続ける。昨年9月にはアーロン・アラメダ(メキシコ)との無敗同胞対決に判定勝ちしてWBCスーパーバンタム級王座を獲得。2階級制覇に成功した。

 階級を上げて体格の不利は否めず、かつての破壊的な印象は薄れつつある。とはいえ今回の統一戦、各ブックメーカーが出すオッズはネリ有利。試合前の会見でも「アラメダよりブランドンのスタイルの方が自分には好都合。パワーがこの階級でも通用することを証明する」と自信満々だった。

 だが、ふたを開ければ、ネリは立ち上がりから苦しい戦いを強いられた。青い瞳の激闘派フィゲロアが、長い体躯を折りたたんで押し込んだ。ここ数戦、精彩を欠いていた24歳のスイッチヒッターは、「過去最高の練習ができた。自分が持っている利点をすべて生かす自信がある」という戦前の言葉を、そのまま実行してみせる。持ち前の推進力と手数。低く潜り込んでのボディ攻撃は有効だった。下がるネリはパンチに力が乗らず、体力を削られて体がひときわ小さく見える。
ヒールついに墜ちる。顔をゆがめてカウントを聞いた(Esther Lin/SHOWTIME)
ヒールついに墜ちる。顔をゆがめてカウントを聞いた(Esther Lin/SHOWTIME)

 5回に強振を重ねてもフィゲロアを跳ね返すことはできない。そして激しい打ち合いの中で、KOシーンは訪れる。右を打ち出したネリのあばらにフィゲロアの左アッパーが見事に突き刺さった。フロアで悶絶したネリは、立ち上がることができないままテンカウントを聞いた。初黒星を喫するとともに初防衛に失敗し、無冠となったネリは、32戦31勝(24KO)1敗。
ボディブローの応酬は長身のフィゲロアに分があった(Sean Michael Ham/TGB Promotions)
ボディブローの応酬は長身のフィゲロアに分があった(Sean Michael Ham/TGB Promotions)

フィゲロアは9月に3団体統一戦に

 不利の予想を覆したフィゲロアは、「みんな僕のことを疑っていたと思うけれど、今こうしてベルトを持ってここにいる。厳しい練習と献身のたまものだ」と語った。この大勝で、9月11日に予定されるWBO同級チャンピオン、スティーブン・フルトン(アメリカ)との3団体統一戦に駒を進めた。 

 フィゲロアの戦績は23戦22勝(17KO)1分。WBAタイトルは暫定王座から数えると4度目の防衛となる。“日本の仇敵”を破ったヒーローは、元WBC世界ライト級チャンピオン、オマール・フィゲロアを実兄にもつ。元日本・東洋太平洋・WBOアジアパシフィック・ライト級チャンピオン荒川仁人と8年前に戦ったファイターだ。細身ながら頑丈な身体と激闘スタイルは、兄弟に共通している。7歳年長のオマールは2週間前に2連敗を喫して苦境にいるが、弟の方は株が急高騰。より注目を集める次戦で、スピードと技巧の難敵フルトンにいかに対応するか、注目である。
流血戦の末、ローマン(左)がエスピノサを破る(Esther Lin/SHOWTIME)
流血戦の末、ローマン(左)がエスピノサを破る(Esther Lin/SHOWTIME)

ローマンは強打のメキシカンに判定勝ち

 この日のアンダーカードでは、日本で世界王座に就いた元WBA・IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン、ダニエル・ローマン(アメリカ)がWBO同級7位のリカルド・エスピノサ(メキシコ)との10回戦に判定勝ちした。

 強打を振って出てくるエスピノサを的確な右クロス、左ボディブローで迎え撃った。7回には攻めの手を強めて左アッパーを連発し、血みどろのエスピノサに9回にドクターチェックが入るが試合は続行。フルラウンドを消化した。採点は98対92が2者と97対93の3-0だった。

 昨年1月にムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に2本のベルトを奪われて以来、再起2戦目だったローマンは33戦29勝(10KO)3敗1分。エスピノサは29戦25勝(21KO)4敗。現在WBC、WBO2位、WBA3位にランクされ、WBCの指名挑戦権を保持する元王者は、「今日のメインの勝者には、私を避けないでほしい」とリング上からアピールした。だが、ネリ、フィゲロア、フルトンらスーパーバンタム級の王者をごっそりかかえるPBC(プレミアムボクシング・チャンピオン)が統一戦路線を押し進めているうちは、指名挑戦者とはいえ、タイトルを持たないローマンの立場は弱い。日本の世界ランカーたちも多数待機する階級であり、トップ集団の動きから目が離せない。

文◎宮田有理子 Text by Yuriko Miyata

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