close

2021-06-20

【ボクシング】大谷翔平にだって負けていない。井上尚弥がラスベガスで痛快KO防衛

左フックでレバーをグサリ。井上は圧巻の強さを見せつけて見事にKO防衛(Getty Images)

全ての画像を見る
 WBAスーパー・IBF世界バンタム級チャンピオン、井上尚弥(大橋)は19日(日本時間20日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのバージンホテルズで、IBFランキング1位のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)と防衛戦12回戦を行い、3回2分45秒でKO勝ちした。バンタム級のWBAタイトルを奪ってから5度目の防衛を果たした井上は、左ボディフックで3度のダウンを奪って、難なく指名挑戦者を撃退した。

勝てる試合は手早くフィニッシュ。それが強さの証明

 これがホンモノの強さというものだ。全階級を通じて最強を決めるパウンドフォーパウンド・ランキングで上位にランクされる理由を、井上はこの一戦でもすっかり実証してみせた。常識的に考えるなら、扱うのにもっとも手がかかるとされる長身のサウスポーが相手だというのに試合前の掛け率30対1。そんな誰もが予測した結末まで、1ミリたりとも想定軌道を外れることなく実行、完結して見せた。難敵相手には自分の強さをより引き立てるパフォーマンスを演じ、力の差がある場合は圧倒的な勝ちっぷりで片づけてしまう。だから、アメリカのファンも含め、誰もが次回の井上尚弥を期待するのだ。

 勝負の輪郭が定まったのは、開始ゴングからわずか20秒。右に回ろうとしたダスマリナスに、軽い左フックをショートでジャストミートした時点からだ。そのタイミング、鋭さに挑戦者の体から慌てる気配が一斉に噴き出した。ときを置いて井上が打ち込んだ同じパンチで、ダスマリナスは上体を大げさによじらせているが、これは恐怖感がもたらしたもの以外の何物でもなかった。さらに右アッパーのボディブローも効果的。この一発も、ダスマリナスが左方向に動き出す瞬間を狙っている。すべてを読まれている。もはや動きようがない。あるいはフィリピン人の頭の中には、偶発的な一発以外に頼るべきものはないという思いでいっぱいだったかもしれない。以降、そのフットワークはチャンピオンの射程外へと退去する手段のみになっていく。ただし、井上は一切、無駄な動きなく、鋭い足取りで迫っていく。
技術も展開作りも一級品。井上が恐怖のパンチを引っ提げて肉薄する(Getty Images)
技術も展開作りも一級品。井上が恐怖のパンチを引っ提げて肉薄する(Getty Images)

初回のやり取りで井上の早期KO決着を確信

 偵察戦である初回のそんなやり取りの中で、井上はダスマリナスの戦力を完全に把握した。「早いラウンドで終わりそうだな」と感じたという。昨年10月、ボクシングの聖地ラスベガス・デビューとなったジェイソン・マロニー(オーストラリア)戦と比べても段違いにシャープであり、井上自身の自信が、テレビ画像を通じても伝わってくる。

 2ラウンド、ロープまで追い詰めた井上は左フックからワンツーとパンチをコンビネーションさせた後、左フックをわき腹に打ち込んだ。上体を沈めたダスマリナスは、その後のワンツーは避けたものの、「もうがまんできない」とばかりに前のめりに崩れ落ちる。懸命に立ち上がって試合続行に応じたが、序曲はもはやこれで終わり。短い本編がここから始まることになる。

 もちろん、ダスマリナスも意地を見せたい。3ラウンド、右ジャブを多用し、ときに左ストレートも投げ込んでくる。井上はあわてず騒がず、すべてを見切った。さて、どのパンチをどの局面で打ち込むか。挑戦者も王者の余裕を察していたのだろう。井上のステップが深く刻まれ、すぐ近くまでやってくると防戦一方になる。そして、井上が狙ったのは再三再四の左ボディ。何度か危ない場面をしのいできたダスマリナスだが、井上が打ち込んだ左フックからワンツー、さらに右アッパーを見せておいてから腹部にその左。『ドスッ』という大きな音が聞こえたとたん、チャレンジャーが身もだえしながら横ざまに倒れ込む。

 カウントアウトぎりぎりで立ってきたダスマリナスだったが、気力も、体力も限界寸前。すたすたと近づいた井上が、今度は左アッパーを上に突き上げて、すぐさま同じ腕をフックに切り替えボディにめり込ませると、どさりとダスマリナスの体が落下する。レフェリーのラッセル・モラはカウントもとらずに、そのまま井上のKO勝ちを宣した。
次戦は再戦? 観戦にやってきたドネアは8月にカシメロと対戦するという(Mikey Williams/Top Rank via Getty Images)
会場に駆けつけたドネア。8月にカシメロと対戦し、勝てば再戦したいという(Getty Images)

8月にドネア対カシメロ? その勝者と井上が対戦か

 初回に左フックを狙ったとき、相手の弱気が見えたので、『こんなものかな』と思いました」

 傲慢な発言では決してない。井上が望む戦いのレベルははるかに高い。ラスベガスで初めて観客の前にしての戦いに快勝しても、バンタム級4団体統一の大きな目標の前ではチューンナップに過ぎなかった(マロニー戦は無観客)。

「これくらいで浮かれていてはいけないステージだったので。それでも、ノニト・ドネアやジョンリエル・カシメロ(ともにフィリピン)も見に来ているし、アピールはできたと思います」

 会場には1年半前、井上と死闘を演じながらも判定負けしたドネア(WBCチャンピオン)、昨今、その剛腕が評判のカシメロ(WBOチャンピオン)もいた。

 試合後にドネアは8月14日にカシメロと王座統一戦を行うと明かした。現時点での正式な発表では、その日はカシメロがWBAレギュラー王者ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)と対戦するとなっている。もし、ドネアの発言が本当なら、井上の相手がドネア、カシメロのいずれになるにしろ、次戦は4団体統一をかけた戦いになる。

「イノウエのパンチはどれもストロングでした。私と戦ったときよりももっと強くなっています。私ももっと強くなってチャレンジしたい」

 実況生中継したWOWOWのインタビューにドネアはこう答えた。続いてマイクを向けられたカシメロは「強かった。井上は相手に何もさせなかった。でも、俺とやったら、俺が楽勝するよ」。井上の強さを認めながらも、いつものビッグマウスでファンを喜ばせてくれた。

 井上もすでに次なる一歩に向かっている。「今日は動きの面でいまいちのところがあったので」。快勝の直後に課題を語る。それでも、この圧巻の強さはどういうことか。もはや、われらの想像の範囲を超えている。マロニー戦のときは、正直、一部に動きの連携に不安も見えた。新型コロナ流行下のコンディション作りや、その減量法について勝手に不安を抱いたりもしたもの。しかし、この日は顔色もよく、出来も見事だった。4団体統一のための相手がだれになっても、井上は万全の形で臨めるはずだ。
 井上はこれで21戦21勝(18KO)。世界戦だけに限ってみても16戦全勝(14KO)。ダスマリナスは34戦30勝(20KO)3敗1分。

文◎宮崎正博(WOWOW観戦)

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事