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2021-06-27

【ボクシング】中谷正義の野心は届かず。完全復活ロマチェンコの連打にTKOで屈する

ロマチェンコ(右)の高速で回転するパンチに中谷はだんだんと追い込まれていった

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 6月26日(日本時間27日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで行われたライト級12回戦で、WBO同級5位の中谷正義(帝拳)が元世界3階級制覇者のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に5回にダウンを奪われ、9回1分48秒TKOで敗れた。

 日本ボクシング史上に残る、ビッグネームとのマッチアップ。世紀の大番狂わせは、ならなかった。現役最強、無敵の時代を築いた“精密機械”はやはり今なお、誇り高く、強かった。

「すごい選手だと思います。でも僕はほかの選手と違って身長という全然違うところがあるんで。ほかの選手と同じようには、ロマチェンコもきっと戦えないと思う」

 ファイトウィークに入り、本人と対面したあともそう語り、泰然としていた中谷は、開始のゴングからすぐ、強く長い左ジャブを放って大一番に漕ぎ出した。しかしほどなく、ロマチェンコが左ストレートを狙いにくる。初回終盤にはバッティングが起き、中谷の右目付近が赤くなり、ロマチェンコは額から出血。続く2回から、ロマチェンコの代名詞というべき自在のステップが、高速で回りだした。

 自身3階級目のライト級で世界4団体統一を目指し、昨年10月、最後の一本IBFのベルトを持つテオフィモ・ロペス(アメリカ)と対戦し、敗れたロマチェンコ。肩を手術し、小柄な体格でなおライト級での再起を決めた“レジェンド”は、「ロペスへのリベンジマッチ」を望んでいる。その第一歩となる再起戦の相手に中谷は選ばれた。2019年7月にロペスをフルラウンドにわたって苦しめ、昨年12月には期待株フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に大逆転KO勝ち。アメリカ2連戦で名を上げた中谷に、白羽の矢が立つ。サイズのアドバンテージ、タフネス、攻撃力。中谷の勝利を期待できる要素はあった。一方、アマ、プロ通じてボクシングを知り尽くす超絶技巧の使い手には、体格の不利とともに故障の回復具合の疑問符はある。しかし、ロマチェンコはロマチェンコ。絶対に負けることは許されない、「自分が何者であるかを、もう一度示す」という決意は本物だった。

 ロングで攻める中谷に対し、ロマチェンコはサイドに回ってかわすとごく短い距離でもパンチを当てていく。劣勢の中でも中谷は懸命にボディ攻撃をしかけたが、ロマチェンコは動きを止めず、クリンチ際のショートパンチも巧みだった。5回終了間際、ロープ際に下がったところに左右ショートフックを当てて中谷をダウン。カウントが数えられた。その後も中谷は被弾を重ね、右目の腫れが酷くなってインターバル中にドクターのチェックが入る。気丈に立ち向かい続けた中谷に、9回、左ストレートがダブルで入ったところで、レフェリーが試合をストップ。崩れ落ちる中谷の体を受け止めた。
危険な中谷に圧勝したことで、ロマチェンコはもう一度、ライト級4団体世界王座統一に挑む
危険な中谷に圧勝したことで、ロマチェンコはもう一度、ライト級4団体世界王座統一に挑む

 リングを降りた中谷は、大事をとって病院へ。過去2度、右眼窩骨折を負っているが、今回は骨に異常はなく、右目上を6針縫ってホテルへ戻った。対峙したロマチェンコについては、「想像以上に、横の動きが速く、左の攻撃が多かったです」と、ジムを通じてコメントを残した。ボクシング界の“至宝”に挑んだアメリカ第3戦。世界ライト級トップ戦線の厳しさを、中谷の身を削るような戦いが物語る。いまは何より、体の回復を最優先してほしいと思う。

 満員2072名の観衆を沸かせたロマチェンコは、「チーム一丸となって戦略を立て、勝利に到達できたことがうれしい。なによりこれで、また軌道に戻ることができる。きっとみんなが待っているのは、“再戦”でしょう」と、ロペスとの再戦を示唆した。WBO・IBF1位のジョージ・カンボソス(オーストラリア)との指名防衛戦を新型コロナ感染で延期したままのロペスは、まずこの義務をクリアしなければならない。ロマチェンコは、「今年の12月でも来年の1月、2月でも、私は待っているよ」と語っている。一度は遠ざかったライト級世界4団体統一の夢へ、33歳の野望は燃えさかっている。

 ロマチェンコは17戦15勝(10KO)2敗。中谷は21戦19勝(13KO)2敗。
プロデビュー戦の村田昴(左)はsスピードで門ロイを圧倒。TKOで初陣を飾った
プロデビュー戦の村田昴(左)はsスピードで門ロイを圧倒。TKOで初陣を飾った

 なお。前座4回戦ではトップアマチュアからこの日がプロデビュー戦となる村田昴(帝拳)が登場し、同じくサウスポーに構えるケブン・モンロイ(アメリカ)をスピードで圧倒。2回1分42秒、左一撃で倒したころで、レフェリーストップによるTKO勝ちを収めている。

文◎宮田有理子 Text by Yuriko Miyata Photo:Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

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