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2021-07-27

【Tokyo2020 ボクシング】日本勢が破竹の7連勝。田中亮明、森脇唯人は初戦突破。入江聖奈は準々決勝進出

入江の右ストレートにハリミエプムラヒの顔がはじけ飛ぶ

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 東京五輪のボクシング競技3日目は26日、東京・両国国技館で開催され、日本からは3選手が出場して全勝を飾った。男子フライ級の田中亮明(岐阜・中京学院大中京高教)、男子ミドル級の森脇唯人(自衛隊)はそれぞれ難敵を撃破して初戦を突破、第2シードのアフリカチャンピオンと対戦した女子フェザー級の入江聖奈(日体大)は、中盤以降に苦戦しながらも判定勝ちで準々決勝進出を決めている。なお、25日の試合で勝利を手にした男子ライト級の成松大介(自衛隊)は自身のツイッターで、額を陥没骨折して2回戦を棄権したと明らかにしている。

厳しいプレスで強敵の得意技を殺した田中

 この日の日本選手の対戦者のなかでは、田中の相手が最も危険だった。ヨエル・フィノル(ベネズエラ)はリオ五輪の銀メダリストで、その後にも世界選手権優勝のヨスバニー・ベイティア、五輪2連覇のロベイシー・ラミレス(ともにキューバ)に勝った記録もある。最近の国際試合での実績では、田中とは格段の差があった。その試合ぶりも、センスあふれる立ち回りに、世界トップクラスの香りがプンプンと漂う。

 そんな厳しい初戦、田中は万全の戦術を手に、同じサウスポーのフィノルの武器を殺していく。最初から強くプレスをかけ、追い立てた。フィノルが得意とするのは左右の動きでスキを探し出し、鋭く振り抜く右フックと、多彩な角度の左ストレート。だが、田中は激しく追撃することで、まずはフィノルの動きを止め、最大の得点源を封じてしまった。それでもフィノルの危ないタイミングの右フックが何発かあり、見た目以上に初回の戦いは競っていたのだが、公表された採点は4対1で田中。積極果敢に攻めることで、ジャッジの心証をつかんだのだ。これは大きい。2ラウンドはフィノルの右アッパー、フックもあったが、田中は臆することなく応戦する。とりわけ左ストレートが映え、ここでもポイントを押さえる。
常に先手を取ってプレスをかけた田中(左)がリオ五輪銅のフィノルに5-0判定勝ち
常に先手を取ってプレスをかけた田中(左)がリオ五輪銅のフィノルに5-0判定勝ち
フィノルの怖い右フックが飛んでくるが、田中は怖れなかった
フィノルの鋭い右フックが飛んでくるが、田中は怖れなかった

 田中は3ラウンドも引くことはせず、逆転を狙ってくるフィオルの攻勢を最小限に食い止めて、見事に勝利にたどり着いた。

 ジャッジのスコアは30対27が2者、29対28が3者の5-0だった。

 実弟でプロの3階級制覇チャンピオンの田中恒成(畑中)は兄の勝利に「勝ててよかったです。見ているこっちが気分が良くなったし、心を揺さぶられる試合でした」と畑中ジムを通じてコメントしている。
この長い左ジャブ。森脇(左)はかつて敗れているムサビに雪辱した
この長い左ジャブ。森脇(左)はかつて敗れているムサビに雪辱した
五輪初勝利に続いて森脇が挑むのは最強選手との対戦だ
五輪初勝利に続いて森脇が挑むのは最強選手との対戦だ

森脇は長いパンチで突き放し、雪辱に成功

 日本選手としては最も重いクラスの代表となるミドル級の森脇は、188センチの長身と長いリーチを存分に生かしきった。相手のセイエド・ムサビ(イラン)には昨年のアジア予選で0-5判定で敗れているが、だからこそ、十分に対策を立てて臨めたのだろう。サウスポーのムサビは強靭なパンチャーながら、自分の得意な距離で戦えないとその攻防が荒くなる。森脇は長い左ジャブ、右ストレートをふんだんに繰り出してムサビの接近を突き返していった。

 初回はその森脇の戦法がまんまとはまり、ほぼ一方的な3分間になる。ムサビのブーメランフックもやすやすと回避した。だが、2ラウンドに入るとやや打ち気にはやり、そのアウトボクシングはムサビのラフな攻めに蝕まれていった。勝負のすべてはラスト1ラウンドにかかる。森脇は再び距離をとって戦った。クロスレンジでは右アッパーを突き上げて、ムサビのラフなアタックをしのだ。

 ジャッジ5人のスコアは30対27、30対27、29対28、28対29、28対29。3-2の僅少差ながら、森脇の勝利自体には疑問の余地は見えなかった。
アフリカ王者のラフファイトに手を焼きながらも、入江は何とかしのぎ切った
アフリカ王者のラフファイトに手を焼きながらも、入江は何とかしのぎ切った

八方破れの乱戦女王に巻き込まれながらも入江が逃げ切る

 敬虔なイスラム教徒なのだろう。フルド・ハリミエプムラヒ(チュニジア)は、ユニフォームの下に黒いボディスーツを着て登場する。だが、信じる神の教えに従順で、アフリカ選手権優勝者の彼女のボクシングを八方破れのケンカ殺法と評したら失礼なのだろうが、それくらいに荒々しかった。この小柄なサウスポーは体を前後左右に激しく動かしながら、スイング、フックを振り回してくる。「なんとしてでも勝つ」という固い決意が、そういう戦法を選ばせているのかもしれない。

 オープニングラウンド、入江はそんなハリミエプムラヒの荒い突進をうまくさばいていく。ジャブ、ワンツーと巧打を集める。やや押し込まれた体勢からも、右でアゴを跳ね上げるなど、確実にポイントを奪った。

 2ラウンドも序盤は足を使い、左フック、右ストレートをヒットしたが、体ごととびかかってきて、プッシング、ホールドを交えてくるハリミエプムラヒの戦法に体力を消耗したか、ラウンド半ばから入江はさっぱり手が出なくなった。このラウンドこそ、最初の好打の印象もあって、初回に続きフルマークの判定を守ったものの、3ラウンドも厳しい展開は続く。断続的なハリミエプムラヒの攻勢に後手に回ってしまう。頑張りきった形で、入江は試合終了ゴングまで逃げ切った。

 スコアは30対27が1人に、残る4人は29対28の5-0だった。
次戦に勝てばメダル確定。このスマイルに大志を隠して思う存分戦ってほしい
次戦に勝てばメダル確定。このスマイルに大志を隠して思う存分戦ってほしい

田中、森脇は次戦も強敵相手。メダルのかかる入江も再び試練の戦い

 田中は31日に中国の胡建関(フー・ジャンガン)と次戦を行う。胡はリオ五輪銅メダリストで、2015年の世界選手権でも同じ色のメダルを獲得するなど大きな実績を持つ。スピード豊かで、次々に速い仕掛けをたたみかけてくる。昨年のアジア予選決勝ではタイの俊英、シティサン・パンミット(タイ)を右一撃で倒し、20代後半の今も全盛の力があるところを証明した。東京五輪初戦でも、サキル・アラフベルドビ(ジョージア)に圧勝している。田中がどんな戦法を選ぶのか。そこから注目したい。

 もっとも手強い相手と戦うことになったのは森脇だ。29日に行われる2回戦でゴールドメダルの大本命、オレクサンドル・ヒズニャク(ウクライナ)との顔合わせ。両腕でがっちりと顔面を守りながらどんどん接近してきて、豪打を連発する。森脇はこの武闘派ファイターをジャブ、ストレートでどこまで抑え込めるのか。

 早くもこの五輪で2勝している入江は28日にマリア・クラウディア・ネキツァ(ルーマニア)との準々決勝。こちらはオーソドックスな技術を備えた好戦派である。とにかく手数は多い。ハリミエプムラヒと比べれば、まだやりやすさはあるが、常に距離を管理する能力が再び試される。3位決定戦がないボクシング競技では、ネキツァに勝てば、準決勝進出でそのままメダル確定になる。20歳の若さでここまできたのだから、入江には“無欲の野心”で立ち向かってもらいたい。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ Getty Images

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