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2021-07-28

【Tokyo2020 ボクシング】岡澤セオン、惜しい。足らなかったレジェンド撃破までのあと一歩

懸命にパンチを繰り出す岡澤だが、イグレシアスはクールに応戦していく

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 4日目を迎えた東京・両国国技館でのボクシング競技。イブニングセッションの第1試合、ウェルター級2回戦に出場した岡澤セオン(INSPA)は、第3シードの難敵ロニエル・イグレシアス(キューバ)と対したが、2対3の判定で惜しくも敗れ、メダルへの進路を絶たれた。初回にリードを奪った岡澤は2ラウンド以降、経験豊富なイグレシアスに追い上げられ、口惜しい逆転負けとなった。

 惜しい試合だった。5人のジャッジが下した採点は29対27で2者が岡澤、残る3者が28対28の同点ながら、すべてがイグラシアスの勝ちとしていた。後者の2点の失点のうち、1点はイグレシアスへの減点処分によるもので、この結果は受け入れるしかない。それでもオープニングラウンドはジャッジ全員が10対9で岡澤リードとしていただけに、残念な思いはなおさら募る。

 なにより、もし岡澤がここを勝ち抜いていたら、メダル獲得にも大きく希望が広がっていたはずだ。32歳のイグレシアスはティーンエイジャーのころから世界のトップを走るレジェンドだ。今回が4度目のオリンピック出場で、過去には金と銅の2つのメダルがある。岡澤と同じサウスポーで、どこまでも滑らかな感触で対戦者のパンチを潜り抜け、強打と巧打を折り重ねて追いつめる。ボクシング術はまさしく名人芸である。このビッグネームに勝てば、岡澤はこれまでよりもうひとつ上の世界を見ることができたのだ。

 そのイグレシアスに対し、岡澤は絶好のスター
トを切ってみせる。相手がやや様子見気配なのを察して、先に先にとパンチを出した。長い右ジャブがボディに伸びる。体を前に投げ出すようにして放った左2発もきちんと当たりはしなかったが、攻勢を印象づけたし、その後に右フックのカウンターをうまくヒットさせた。

 そして出されたのが、5-0で岡澤リードのスコアだ。無観客ながら、集まった関係者の間から大きなどよめきの声が上がる。岡澤が勝つことが、どれだけの驚きをもって世界に伝わるのか。現場観戦者の反応が、そのままを示していた。

 さらに2ラウンドの序盤、後ろを向いた岡澤の後頭部に向けてイグレシアスが右のパンチを発射する。これを故意の反則打(ラビットパンチ=後頭部への打撃)とみなしたレフェリーが減点処分を取る。岡澤の勝利がしっかりと見えてきたと多くは思い込んだことだろう。

 だが、ここからが名人の本領発揮だった。イグレシアスは攻撃のピッチをいよいよ上げてくる。有効な反撃打を打てない岡澤はいきなり旗色が悪くなる。流れは急速にレジェンドへと傾いていった。
伝説の技巧はやはり健在だった。前半のビハインドを着実に取り返した
試合後、勝者とともにポーズを作った岡澤。胸中は複雑だったに違いない
試合後、勝者とともにポーズを作った岡澤。胸中は複雑だったに違いない

 そして3ラウンド、イグレシアスがボディを連打してから返した右フックが顔面をかすめ、オーストラリア人のレフェリー、カール・ルーヘンが岡澤にスタンディングカウントを数える。二歩ほど後ずさりしたことで、ダメージがあると判断されたのだろう。この後、岡澤のボクシングは乱れていく。打たなければ、ヒットを重ねなければという焦りからか、そのパンチングフォームははっきりと崩れ、イグレシアスは余裕をもってさばいていった。

 採点上は競っていても、技術の幅、試合運びの安定感に差があったのは、正直に認めざるをえない。「アマチュア(オリンピックスタイル・ボクシング)で食べていけることを証明したい」とプロには行かず、五輪を頂点とするアマチュアのエリアでの大成を目指す岡澤にとって、あと一歩で逃したビッグウィンも大切な経験になったと信じたい。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

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