1年遅れで開催された2020夏季オリンピック東京大会が8月9日に閉幕した。史上最多のメダルを獲得した日本選手団の活躍もあって、大会は盛り上がり、日本のスポーツシーンにおけるオリンピックの求心力の強さをまざまざと見せつけた。
日本アメリカンフットボール協会(JAFA)と日本フラッグフットボール協会(JFFO)も、共同プロジェクト「FLAG FOOTBALL PROJECT 2028」※1を立ち上げ、2028年の夏季五輪ロサンゼルス大会で追加種目化を目指している。今後の課題についてJAFA常務理事(フラッグフットボール担当)の輿亮さんに、話を聞いた。(取材・構成:小座野容斉)
【インタビューの前編】「選手を取った、取られたという時代ではない」日本協会・輿亮さんに聞く(1)
フラッグを続けられる環境を■Xリーグや大学のチームがジュニアのフラッグチームを持っています。子どものプレーする機会も増えてきていると思いますが。
「フラッグフットボールで男女が一緒にプレーするミックスカテゴリーも考え得るという話をしましたが、それはチームができるということ、試合ができるということとの循環です。小学生の女子選手が上の学校へ行ってもフラッグフットボールを続けさせてあげたい。」
「彼女たちが、高校でも続けられる環境があれば、IFAF(国際アメリカンフットボール連盟)のルールでは、国際大会は16歳から参加できるのでそこにつながっていくこともできます。子ども時代から続けていった若い選手が参加できる。」
■今は、特に女子選手は、高校で競技を続ける方法が無く、一度途絶えてしまいますね。
「私が少し勉強不足で、しっかりとしたことは言えないのですが、フラッグフットボールはコンタクト(身体接触)が無いので、指導者(顧問の教諭)が安全性をケアする部分が、それほど負担にならないとすれば、いわゆる部活とならずとも、生徒たちだけで楽しむ自主的な、放課後の活動としても可能ではないかと思っています。」
「ただ、そうなってくると、やはり試合があるから練習する、試合があるからチームを作るという動機の部分があるので。我々(JAFA)は、フラッグの試合の場を、もっと設けていくということだと考えています」
「この話の延長線上として、次のようなことを考えています。アメフトの高校チームは、部員が少なくて、複数のチームが共に戦う合同チームも増えていますよね。選手が最低11人いないと大会に出られないのですが、例えば部員5人のA、B、Cの各高校が3校集まって15人の合同チームを作る。でもフラッグなら5人いればチームができるので、A高校対B高校の試合ができるようになる。」
「関東高校連盟の桒原(信一郎)理事長にも、個別に少し時間を作ってお話ししました。高校の監督会の中で、皆さんの意見を聞いていただけないかと。大きな高校で、フラッグに人が行ってしまうのは困るという部も中にはあるかもしれませんが、部員数が足りない小さな部であればいろいろなチャンスが出てくる。」
「高校の部活動は、いったん廃部になってしまうと復活するのはなかなか困難です。フラッグフットボールを競技するチームとして、部を延命というか保つということも考えられる。そういったことも含めて、アメフトをやりながらの兼部ですね。」
■ラグビーのセブンスも、今はかなり専門化しましたけれど、元々は兼任でやるのが当たり前でした。
「ラグビーはセブンスというスタイルを、早くから導入しており、結果的に、コンパクトな夏季五輪にも上手く適合したとも言えます」
2022年から国内ルールをIFAFと同じに■学習指導要領に載った※2とは言っても、学校の先生でフラッグフットボールを教えることができる人材が少ない。やはり、中学まではやっていても、高校・大学で部活動として存在していないので、経験者の先生が限られる。大学が本格的に取り組むとなれば、そこも変わってくるのではないかと思いますが。
「おっしゃる通りですね。学習指導要領で取り上げられたことはとてもありがたいですし、川崎市ではJAFAが以前から巡回指導をしていて、指導用の動画を協会のサイトに上げたりしています。『生徒さんに、事前にしっかり観てもらいたい』ということと、『他の地方にも知ってもらいたい』の2点です。」
「巡回指導は、学校の授業で複数コマやる場合に、導入部分を、学校から希望があれば『お手伝い』していると認識しています。一度『発火』させてしまえばいいですし、見せればわかりやすいとは思います。」
「経験のある、やったことのある先生が増えてきて、そういった先生が授業のスタート時にお手伝いしていただくということも考えられるでしょうし。もちろん体育系の先生ばかりではないのですけれど。やはり、そういった経験のある先生が、たとえば1校に1人いらっしゃればいいなと思います。」
■話を少し戻します。関東学生アメリカンフットボール連盟(KCFA)が主催した「フラッグボウル」、さらにKCFA選抜が男子日本代表と対戦した強化試合で使われたボールは、通常のアメフトのボールと同じサイズですね。
「IFAFのルールと同じボールです。IFAFの試合球は、男子は元々レギュラーサイズのボールを使っていて、女子は一回り小さなサイズを使っています。(大学アメフト部OB対抗戦の)ハドルボウルはレギュラーボールを使っています。 日本の国内ルールでは、男子も小さなボールを使用していましたが、来年、2022年から日本国内の大会ルールをIFAFと揃えるので、使用球は同じになります。」
「ボールのサイズは、レギュラー、一回り小さなTDY、さらに小さなTDJと3段階あります。IFAFのルールでは男子はレギュラー、女子はTDYと決まっています。小学生まではTDJサイズです。」
「来年以降、中学生にレギュラーボールを強いるのは、無理があると考えていて、決まっていません。中学生になった途端、TDJサイズから、TDYを越えてレギュラーになると、2段階大きくなるので。IFAFルールも16歳以上に適用ということなので、中学生は男女ともにTDYサイズになるのではないでしょうか」
「フラッグをずっとやってきた子たちには、このボールサイズは実は大きなハードルだったりしますが、アメフトをやっている選手たちは、このボールに慣れています。何の違和感もない。そういう部分でも、彼らアメフトの選手たちは近いところにいます。」
五輪種目化はコンパクトな開催がカギ■今後の2028年ロス五輪に向けた競技化の動きはどうなっていくのでしょうか
「KCFAは、今回フラッグボウルで2028年に向けた大会と銘打ってくれましたが、我々も昨年5月に、日本協会と日本フラッグフットボール協会の合同で『2028プロジェクト』を立ち上げて、今後は国内の大会を共催していく、そして競技力を上げていく。日本の動きとしてはそういうことでしょう。」
「国際的には、NFLがサポートして来年のワールドゲームズ(2022年7月、米アラバマ州バーミンガム)にフラッグフットボールが追加競技として採用された。それをIOC(国際オリンピック委員会)の幹部が見に来るのは間違いないでしょう。」
「ワールドゲームズにフラッグフットボールが入ったというのは非常に大きな努力の成果だったと思います。そこで成功することが、2023年に決まるであろうロス五輪の追加種目を考える上で大きな要素となる。コンパクトな競技開催ができるかどうかというのをIOCは見てくると思います。」
「コンタクトが無いがゆえに、例えば、男女ミックスでも試合ができるなと思ってもらえるかもしれない。元々フラッグはコンパクトに開催ができる競技ですが、さらにコンパクトにし得るのです。楽しい、面白い競技であってもコンパクトであることが大事です。」
■五輪競技化を考えた場合、アメフトで一番ネックだったのは、選手数の多さと、競技日程の長さです。五輪全体で選手総数を約1万人余りに抑えたいという議論をしているときに、選手だけで1チーム45人の競技が加わるのは困難でした。
「そういう意味では、ラグビーにはセブンスがあった。我々にも、『防具を付けたタックルフットボールの少人数バージョン』は、発想はあったものの、世界レベルで広めるには道のりが遠く、フラッグフットボールの方が、普及が容易とIFAFも感じていると捉えています。それがワールドゲームスでの実施にもつながった。ちょっと後手に回りましたけれど。」
■ラグビーのセブンスは、やはり15人制の伝統国が強い。その点では、フラッグフットボールは、もう少し全世界的にフラットに感じます。
「それはあります。もちろん米国など北米勢は強いです。ですが、アメフトでは決して強くはないイスラエルとかオーストリアがかなり良いところまで行く。あるいは北欧勢とか。」
「日本代表としては、アメフトでは北米に次いで我々がいるという自負からすると、フラッグでも欧州勢に負けていてはいけないと思うのです。そのためには日本のフラッグフットボール人口がもっと分厚く、若い選手が入ってくるようにならないといけません。そこは男子日本代表の岩井歩監督の悩みでもあります。」
■大学でもフラッグフットボールが広まって、将来はフラッグの学生チャンピオンを決める試合を、甲子園ボウルの試合前に、同じフィールドで戦ったりできるようになればという案を、KCFAの廣田慶理事長が話していました。関西学生連盟や、各地区の学生連盟にも広がるといいですね。
「フラッグボウルの開催案は、ずいぶん早くからKCFAから頂いていたので、JAFAの理事会でもお話ししています。皆さんは承知の上なので、やれるところからやればいい。みんな揃うの待って横並びで一斉にスタートするという必要もないと思います。」
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輿さんは、8月16日に、兵庫県西宮市のコミュニティ放送局・さくらFMの生ワイド番組「Sakuっと La・ら・Ra 西宮」に出演する。午前11時台の「ラグジュアリー・タイムゾーン」で約1時間にわたって、フラッグフットボールについて話す予定。また9月開幕のNFL、今季の見どころも聞けるという。
同番組は、近藤冨士雄さんがパーソナリティー。近藤さんはNHKアナウンサーだった時代、BS放送でNFL中継を担当し、豊富な知識と、正確かつユーモラスな実況で、NFLファンの人気を集めた。さくらFMはインターネット経由で、どこにいても聴くことが可能。聞き逃し配信にも対応している。
フラッグフットボール男子日本代表=撮影:小座野容斉※1 「FLAG FOOTBALL PROJECT 2028」日本アメリカンフットボール協会と日本フラッグフットボール協会が共同で、個の力を結集するフットボールの体験を通じて、生きる力、自信、社会で活躍する力を育むことを目的としたプロジェクト。2020年5月から始まり、3つの重点目標を掲げている。
・2028年ロサンゼルス夏季オリンピックにおいて、フラッグフットボールがアディショナルゲームとなること。
・競技力を向上させ、夏季オリンピックのフラッグフットボールに日本代表選手が出場すること。また、競技と関係の強い人口を増やすこと。
・学校教育において、フラッグフットボールがスタンダード種目になること。
※2 学習指導要領とフラッグフットボールフラッグフットボールは2020年度から、文部科学省が定めた「新学習指導要領」本編に掲載された。「自主的に考え、学ぶことができる新しいスポーツ」として、小学校の体育の授業で取り上げられる可能性が増えた。2011年度以降、学習指導要領付属の解説書に例示掲載されていた。
フラッグフットボール男子日本代表=撮影:小座野容斉