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2021-09-22

【ボクシング】矢吹正道が新チャンピオン! 安定王者・寺地拳四朗を10回TKO

鬼気迫る形相で王者・寺地(左)を攻めていく矢吹

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22日、京都市体育館で行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦は、挑戦者1位の矢吹正道(29歳=緑)が、チャンピオン寺地拳四朗(29歳=BMB)を10回2分59秒TKOで下し、新チャンピオンとなった。矢吹は世界初挑戦での戴冠。敗れた寺地は9度目の防衛に失敗した。

文_本間 暁(ライブ配信観戦) 写真_早浪章弘

 壮絶、死闘……。真っ先に浮かんでくるのは、このふたつの言葉だ。両目周りが腫れあがった矢吹、右目上がザックリと切れて大量の出血に見舞われた寺地。
 見た目だけではない。ふたりとも、立っているのが信じられないほどの肉体的ダメージを負い、スタミナのタンクもほぼ空になった状態に見えた。

 9ラウンド。寺地の左ボディブローを食った矢吹が、あからさまに効いた素振りを見せた。寺地はここぞとばかりにボディを攻め立てる。ロープを背に、貝のように丸まった挑戦者はしかし、手負いの状態からカウンターを狙う。そして危険地帯を脱出。リングの中央で猛烈な打撃戦を繰り広げる。左ジャブ、左フック。鋭利な刃物を薙ぐようにして放つ武器が、王者の顔面を捉えると、右目上がパックリと切れ、鮮血が流れ出した。

 これまでの世界タイトルマッチで、こんな傷を抱えたことのない寺地。だが、躊躇することなく攻め続ける。しかし、チャレンジャーの気持ちはこの一撃で持ちこたえたのではなかろうか。

「途中諦めそうになったけれど、セコンドとみなさんの声援で耐えることができました」。矢吹はそう振り返ったが、3ラウンドから右目下が腫れだし、見えづらい恐怖と戦い続けてきた精神が、大きな傷を負わせたことで五分に持ち込まれた気がする。

 10ラウンド。だが、先に仕掛けたのは寺地だった。ボディを打てば攻め落とせる──。本人でなくとも誰の目にもそれは明らかで、ポイントの劣勢を大逆転するチャンスでもあった。矢吹は耐える。踏ん張る。そしてビッグパンチで必死に跳ね返す。さらに一瞬のスキに差し込む左ボディアッパー。急所のみぞおちを捉えたのだろう。今度は王者がよたよたと後退した。いつの間にか両目周りが腫れあがっていた矢吹は、一気に攻め込んでいく。ショート連打を集めながら右強打。寺地にロープを背負わせての波状攻撃だ。食らいついたら逃さない。どこにこんな力が残っていたのだろうかという執念の連打。するとここで福地勇治レフェリーが割って入り、寺地を抱きかかえたのだった。

勝利の瞬間! コーナーポストに上って会場に向かって絶叫した
勝利の瞬間! コーナーポストに上って会場に向かって絶叫した

序盤から得意の左ジャブでペースを握りにいった寺地

序盤から得意の左ジャブでペースを握りにいった寺地

 終盤に入り、ハードな打ち合いに突入していったこの試合。だが、序盤4ラウンドは、互いに距離を取り合い、左ジャブを丹念に突き合う技術戦の様相だった。寺地は右足のバネを利かしての細かい足運びから、前後動作を繊細に繰り返す“拳四朗ボクシング”。矢吹は両ガードを高く掲げ、これを弾きながら、間隙に深く突く左。ときに下がり、寺地を引き寄せて左右のビッグパンチを振るう。第三者的にはラフに見えるかもしれないが、意外なタイミングで繰り出し、軌道も読みづらいスイングは、寺地を戸惑わせたはずだ。細かいジャブの正確さで寺地を推す声もあろうが、ジャッジ2者は4ラウンドまでを矢吹のフルマークにつけた(1人は38対38)。

右の相打ちは、矢吹が意図したものが多かった
右の相打ちは、矢吹が意図したものが多かった

 これを聞いた王者は、5ラウンドから徐々にプレスをかけていき、それまで数少なかった右ストレートも織り交ぜていく。しかし矢吹は引きながら、強くて深い左、さらには右カウンターを相打ちのタイミングで合わせていく。寺地本人、陣営ともに矢吹のジャブの深さは想定を超えたものだったかもしれない。

王者の左ジャブ連打に、矢吹は単打だったものの、深くて強い左を突き返した
王者の左ジャブ連打に、矢吹は単打だったものの、深くて強い左を突き返した

 自身の3、4発と続けるジャブに、単発ながら効果的な左、さらには右クロスを合わされ、続けていきなりの右ロングアッパーカット、大きく弧を描いて上下どちらに飛んでくるかわからない、鎌のような左フック……。ストレート系ブローでペースをつかみかけながら、押しとどめられ、押される。寺地はリズムに乗り切れず、戦いの絵図は矢吹の描いたものが占めていった。

「この試合で死んでもいいと思っていたけれど、生きて、しかも勝つことができた」と塞がった両目で絶叫した矢吹。「最強のチャンピオンだからこそ、挑み甲斐があるし、勝ったときの喜びが違うはず」と語っていたとおり、フラフラの状態ながら、リングから四方に向けて、チャンピオンベルトを誇示した。

階級最強の呼び声高い寺地から奪ったベルトの価値は大きい
階級最強の呼び声高い寺地から奪ったベルトの価値は大きい

「勝っても負けても引退しようと思っていたけれど、これからのことはまた考えます。拳四朗選手は本調子ではなかったかもしれないけれど、絶好調同士でいずれまた戦ってもいい」と、再戦をほのめかす発言もして、京都の観客にアピールした。16戦13勝(12KO)3敗。

「年内にV10を達成したい」と常々語っていた寺地。新型コロナウイルス感染により、予定より12日延期しただけで試合に臨んだのは、その逆算からか。一気に攻め落とす体勢に入れない場面もあり、そこにコンディションの不完全さを感じた。初黒星の寺地は19戦18勝(10KO)1敗。

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