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2021-11-05

【連載 名力士ライバル列伝】心を燃やした好敵手・名勝負―横綱大乃国中編

巨体を生かした怒濤の寄り身で横綱の座をつかんだ大乃国

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大横綱千代の富士の胸を借り、そして挑戦し、強くなった男たち。
元横綱北勝海、現日本相撲協会理事長の八角親方と、
元横綱大乃国の芝田山親方の言葉から、
それぞれの名勝負や、横綱としての生き様を振り返っていこう。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

九重勢二人を倒し全勝で初優勝

昭和62(1987)年夏場所、特に、いつもより調子が良かったわけではないんですが、初日(逆鉾戦)にいい形で勝つことができ、その感触がその後もずっと続いてくれました。2日目の益荒雄関との一番も、蹴返しにこられても、腰がブレずに落ち着いて対応できた。ヒヤッとしたのは、後退しながら土俵際、上手投げで勝った小錦戦(6日目)くらいで、残りはすべて、本当に自分の思い描くような相撲を取れました。

14日目、千代の富士さんとの対戦は、ここまで全勝だし、いつもやられている相手ですから(ここまで5勝15敗)、これは勝たにゃいかんなと。攻略法? それはもう、立ち合いですね、千代の富士さんの立ち合いの速さに合わせてしまうと、先に左上手を取られてしまう。だから、自分の間合いで立ち、先に左上手を取って落ち着いて攻めていくこと。そして、千代の富士さんは、体の大きい私をどんどん揺さぶってきて、揺さぶることで廻しを取らせず、揺れが大きくなったところをつけ狙ってくるんです。だから揺さぶられても、なるべく最小限に抑え、自分からどんどん胸を合わせていこうと考えました。

この相撲も、初め上手は取れませんでしたが、自分の立ち合いからいい流れを作れているからこそ、相手にも上手を与えず、途中で下手投げを打たれても、こらえて、最終的に勝てているんです。腰がグッと下がり、体をうまく密着させ、相手に攻める体勢を作らせず、腰が入ったところを押しつぶした、という相撲でしたね。

千秋楽の北勝海関との一番は、晩年こそバタバタ負けましたけど、当時は合い口が良かったですからね(ここまで14勝6敗)。1差で追いかけてきた彼が、逆転優勝なら横綱という話がありましたから、それは阻止したい思いもありました。結局、場所後に横綱へ推挙され、先を越されたのはちょっと心残りでしたけど、まあ、それで自分は「昭和62年」の「第62代横綱」になったんですから、覚えやすくて良かったかなという感じですね(笑)。

昭和63年春場所、2場所連続で結果を残せず“クビ寸前”のところから、北勝海関を逆転して横綱として初優勝。「何回でも優勝したい」という欲はあったけれど、その後は、無呼吸症候群の影響もあって賜盃には手が届きませんでした。その中で、やはり皆さんの印象に残るのは、同年九州場所千秋楽、千代の富士さんの連勝を53で止めた一番になるんでしょうね。(続く)

『名力士風雲録』第20号北勝海 大乃国 双羽黒掲載

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