米プロフットボール・NFLの現地11月29日(日本時間30日)に、メリーランド州で行われた第12週のマンデーナイトゲームでは、めったに見ることができないプレーが起きた。その、「ディフェンシブ・2ポイントコンバージョン」をはじめとして、両チーム合わせて4タッチダウン(TD)の中で、3回のエクストラポイントが、スコア上は2ポイントコンバージョン(CV)となり、その成否がゲームを左右した。(写真はすべて Getty Images )
ワシントン・フットボールチーム○17-15●シアトル・シーホークス(2021年11月29日、フェデックスフィールド)【試合経過】
ワシントン 第1Q 2:59 Kジョーイ・スライ 23ヤードFG
15プレー68ヤード9:25 [0-3]
シーホークス 第1Q 残り0:20 TEジェラルド・エバレット 6ヤードTDパス←QBラッセル・ウィルソン (キック成功)
6プレー75ヤード2:39 [7-3]
ワシントン 第2Q 残り0:56 RB J.D.マキシック10ヤードTDパス←QBテイラー・ハイニケ
9プレー73ヤード2:56 [7-9]
シーホークス 第2Q 残り0:56 DEラシーム・グリーン ディフェンシブ2ポイントCV
[9-9]
ワシントン 第3Q 残り8:30 RB J.D.マキシック10ヤードTDラン (RBアントニオ・ギブソン 2ポイントCV)
11プレー73ヤード4:56 [9-17]
シーホークス 第4Q 残り0:15 WRフレディ・スウェイン 32ヤードTDパス←QBウィルソン (2ポイントCVパス失敗)
10プレー96ヤード2:04 [15-17]
「最重量」のディフェンス2ポイント そのプレーは前半残り1分を切ったところで起きた。ワシントンは第2Q終盤、QBハイニケからRBマキシックへのTDパスで逆転。しかし、KスライのエクストラポイントのキックをシアトルDEグリーンが飛び込んでブロック。映像ではCBのD.J. リードが飛び込んだように見えたが、実際にはグリーンに当たっていたようだ。グリーンはそのボールを拾い上げると、反対側のエンドゾーンまで走り切ってディフェンシブ2ポイントコンバージョンを完成させ、2点を得た。
TD後のエクストラポイントでキックをブロックしたり、ファンブルなどでボールを奪って、反対側のエンドゾーンまで走り切ったらどうなるの?という質問を時々受けることがある。それがこのプレーだ。NCAAルールでは2点。NFLでは、以前は単なる「No Good」(失敗)だったが、2015年にルール変更があり、リターンの2点が認められるようになった。
めったに見られないプレーではあるが、今回を含めて過去7シーズンで10回以上は起きているようだ。
NFLによると、体重127キロのグリーンは、ディフェンスの2ポイントコンバージョンを決めた中では最重量選手となった。興味深いデータを提供してくれるネクストジェネレーションスタッツによると、グリーンはこのリターンで94ヤードを走り、最高時速は29.6キロに達したという
ワシントンのKスライはリターンするグリーンを追いかけていたが、途中でハムストリングを痛めて転倒した。スライはこの後プレー不可能となった。
4点差を目論んで失敗し同点となってしまったワシントンは、第3QのマキシックのTD後、Kスライの負傷の影響もあり、RBギブソンが2ポイントコンバージョンを決め8点をリードした。
試合時間残り15秒、TDを決めて2点差としたQBウィルソンは、2ポイントコンバージョンを狙ったが、ワシントンCBケンドール・フラーにインターセプトされたのだった。
4連敗後3連勝 ワシントンに注目 ワシントンは、急速にチームを立て直しつつある。第5週から4連敗を喫した時は、今季は終わりかと思われたが、その後3連勝。奏功しているのは ロン・リベラヘッドコーチ(HC)らしい、パワーフットボールだ。この日も含めて4試合連続で対戦相手のオフェンスをトータル300ヤード以下に抑えた。
DLチェイス・ヤングとモンテス・スウィートを欠くワシントンディフェンスは、パスラッシュではサックは2回だったが、シーホークスQBウィルソンを苦しめた。より重要だったのは、試合を通じてランを封じ込めたことだ。ロースコアゲームにもかかわらず、シーホークスのランはわずか34ヤード、最も走ったランナーが16ヤードのQBウィルソンだった。
ワシントンのオフェンスはRBギブソン(29回、111ヤード)を中心に、ラン152ヤードを記録した。またRBマキシックも、7回30ヤード1TD、パス5キャッチ26ヤード1TDを稼いだ。
その結果、タイムオブポゼッションは18分20秒と41分10秒という大差でワシントンが上回った。
QBハイニケは、パス27/35で最高率80%。223ヤード、1TD、1INTで、大きなミスをほとんどなかった。ショート・コンプリートがハイライトになるようなプレーよりも価値があることを理解していた。欲をかいてロングパスを投げるのではなく、アンダーニースの空いているレシーバーに確実にパスを決めて行った。
第4Q残り7分の段階で、ハイニケが成功させた20回のパス中11回がRBをターゲットとしていた。RBマキシックへのスクリーンパスは先制TDとなった。
ワシントンは5勝6敗とまだ「借金」がある。ただし、NFC東地区首位のカウボーイズと2度の対戦を残している。今季からレギュラーシーズンが1試合増えて17試合となり、プレーオフ進出チームも、昨年からAFC、NFCともに7チームとなっている。そして第12週を終えた時点で、NFCは勝ち越しが5チームしかない。ワシントンは面白い存在になってきたと言えそうだ。
キャロルHCとQBウィルソンの今後は ウィルソンが指の骨折から復帰してからの3試合で、シーホークスは合計28点しか取っていない。オフェンスの不振で、ウィルソンに批判が集まるのはQBの常として仕方がない。だがランプレーの欠如に加えて、レシーバー陣の問題も見逃せない。プレーメーカーのD.K.メトカーフは、パスキャッチわずか1回。試合時間残り1分になってからだった。ターゲットとなったのがわずか4回では、集中力が保てなかったのだろうか。
3勝8敗となったシーホークスには、数字上はプレーオフ進出の可能性が残されている。ただ、カンファレンス内の順位でいうと、NFCで、シーホークスより下位なのは0勝10敗1分のライオンズだけだ。
ピート・キャロルHCとQBラッセル・ウィルソンは、シーホークスにスーパーボウル初優勝をもたらした。キャロルは、直近の9シーズンで8回プレーオフ出場、ウィルソンは同じ時期に7回プロボウル選出と実績も積んできた。それだけに今季のこの状況は受け入れがたいものがあるだろう。
この9月に70歳となり、NFLの現役最年長ヘッドコーチとなったキャロル、入団10年、この日が33歳の誕生日だったウィルソン。今後は、2人の去就に注目が集まるのは避けられそうにない。