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2021-12-17

【陸上】クイーンズ駅伝初優勝・積水化学を支えた森智香子の背水からの復活劇「1年間の取り組みの成果を出せた」

クイーンズ駅伝優勝を果たし、目を潤ませる森智香子(積水化学)



駅伝に向けた自己改革で自己新連発

 森の記録が再上昇したきっかけは、20年に新谷と卜部が積水化学に加入したことだった。TWOLAPS TCで練習を積む2人だが、駅伝は心を1つにして走り、昨年のクイーンズ駅伝はチーム史上最高の2位となることができた。

 しかし1区の佐藤(区間3位)、2区の卜部(区間賞)、3区の新谷(区間賞)で2位を走る日本郵政に55秒の大差をつけたが、4区以降の3区間は区間14位、16位、11位。5区の森は日本郵政の鈴木に抜かれた当事者となった。優勝するには自身を含め、TWOLAPS TC2人と佐藤以外がレベルアップすることが不可欠だと思い知らされた。

 森は「昨年の駅伝が終わってすぐ、1年後に向けて365日、どう取り組んでいくかを考えた」という。そのとき28歳。自己記録更新が簡単ではない年齢になっていたが、休日も体を動かすなど生活パターンを変更した。

「冬期に、苦手だった距離を走ることを考えました。そのためには練習を継続しないといけません。年齢的に以前と違うケアなどにも取り組みました」

 以前は月間500~700kmが精一杯だったが、多い月は月間900km近い距離を走るようにした。2月には「苦手だったハーフマラソン」で1時間10分53秒と自己記録を大きく更新し、5月には5000mで15分42秒00、1500mで4分14秒97とトラック種目でも2週連続自己新をマークした。1500mは8年ぶりの自己新でレベルも高い。その1500mの翌日には3000mSCでも9分50秒67と、自己記録に5秒40まで迫った。

 スピード練習を多く行ったわけではないという。夏に故障もしたが、秋にも5000mで15分48秒84をマークした。冬期の走り込みが生き、森が持っているスピードと噛み合ったからだろう。何より、駅伝優勝に向けてモチベーションが上がっていた。

 数年前に優勝を狙っていたときから駅伝メンバーだった森が、前回の結果で自己改革を行い真っ先に結果を出してチームに刺激を与えた。森が1区で好スタートを切ったのは、この1年間を考えれば当然だった。

もう一度、日本選手権の表彰台へ

 森の21年シーズンはクイーンズ駅伝だけでは終わらなかった。12月10日のエディオン・ディスタンスチャレンジin京都5000mで、15分21秒42と自己記録を18秒58も更新したのだ。以前の自己記録より1周あたり、1秒49も速く走り続けた計算になる。

 オレゴン世界選手権の標準記録(15分10秒00)を切った木村友香(資生堂)と田中希実(豊田自動織機TC)らの集団にはつけなかったが、アグネス・ムカリ(京セラ)が15分40秒でペースメイクした集団で走った。その集団が設定より少し速いペースで進んだことも幸いしたが、最後の1000mを2分54~55秒というスパートで川口桃佳(豊田自動織機)や井手彩乃(ワコール)、チームメートの木村ら若手選手たちを引き離した。

 野口監督は大会翌日に「3000mSCで9分45秒27を出していた16年頃は、松崎とも同レベルの練習ができていたので、15分30秒ちょっとは出ておかしくなかったんです」と話した。
 しかし15分40秒台は5シーズンで走っていたが、15分30秒台に入ることができなかった。

「5000mに苦手意識を持ってしまっていて、ラストも持っているのに出し切れませんでした。昨日は最後がキレキレでしたね。クイーンズ駅伝後は調整を変えたくらいで、そんなに練習していませんが、駅伝に勝ったことで、気持ちよく走れたのは確かでしょう。1年間取り組んだことが結果として出せて、気持ちが前向きでした」

 森のコメントにもあったように、野口監督は森に、「もう1回、日本選手権(3000mSC)の表彰台に乗ってから引退するようにしよう」と話してきた。それが森のモチベーションになってきたが、5000mでの大幅自己記録更新で表彰台の中央や、日本人2人目の9分40秒切りも見えてきた。

「日本選手権の表彰台に乗って、もう一度駅伝で活躍するのが一番良い終わり方でしょうね」

 1年後のクイーンズ駅伝でも森は、自身と積水化学の“歴史”に新たなページを加えるのだろうか。


卜部蘭、佐藤早也伽らとクイーンズ駅伝初優勝を祝って自撮り

文/寺田辰朗 写真/中野英聡、川口洋邦

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