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2021-12-15

【ボクシング】「自分、パンチあるのか? と疑った」──井上尚弥、防御一辺倒のディパエンを七色の攻め手で8回に倒す

きっちりと倒してストップしたのはさすがだった

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 14日、東京・両国国技館で行われたWBAスーパー・IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオン井上尚弥(28歳=大橋)が、挑戦者WBA10位、IBF5位のアラン・ディパエン(30歳=タイ)を全ラウンド圧倒。8回2分34秒TKOに下し、WBA6度目、IBF4度目の防衛に成功した。

写真_菊田義久

「戦前の予想をはるかに下回る試合をしてしまいました」。傷ひとつない顔の井上は、照れ笑いを浮かべながら7000人の大観衆に語りかけた。

 日本中を感動の渦に巻き込んだ、2年前の11月に行われたノニト・ドネア(フィリピン)とのWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)決勝。それ以来の国内リング登場となった井上にかかる期待は尋常ではなかった。挑戦者との実力差(とはいえ、いまの井上なら、相手が誰でもそうなるが)も早くから喧伝され、「井上圧勝。何ラウンドで終わるか」ばかりがファンや関係者の間で取り沙汰されてきた。

堅いガードを突き破ろうとする井上の右ストレート
堅いガードを突き破ろうとする井上の右ストレート

 そういう見方だけすれば、「井上が倒すまでに時間がかかった」となるのだろう。が、ガードが堅く、異常な打たれ強さを持つディパエンが、途中からディフェンスに忙しく、逃げの一辺倒になれば、さしもの“モンスター”もハードヒットを奪うには苦労する。だからこそ、井上が持つ様々な攻撃の引き出しが開けられた。一撃KOの“モンスターパンチ”が世界中の人を惹きつけてやまないが、「ナオヤ・イノウエはこんなこともできるんだ」と、その“七色ぶり”を味わってほしい試合だった。

 ジャブひとつとっても数種類。軽く弾くように打つもの、速く深く踏み込んで突き刺すもの、まるであのナジーム・ハメド(イギリス)を彷彿とさせるような奔放なフットワークから、フリッカーで放つもの……。ストレートのコンビネーションも、タイミングをずらしたり速めたりと“時差”を自在に。フック系で意識を散らしてガードをこじ開けさせようという努力も随所に見られた。もっとも多用したのは、ワンツーからの左ボディブロー。フック、アッパーと軌道や角度、タイミングを様々に変えてディパエンのボディを叩きまくった。

右アッパーからの左ボディブローも何度か見せたのだが……
右アッパーからの左ボディブローも何度か見せたのだが……

 だが、挑戦者は沈まない。「ファンや母国のことを考えて耐え抜いた」と語ったが、井上が「よく研究されていた」と言ったように、“モンスター”の攻撃パターンを読んでいたのだろう。堅いガードに加えて、若干急所を外す動作をともなっていた。

 序盤はスリルを孕んでいた。初回、じっくりとディパエンのタイミングを計った井上が、じんわりと攻めていくと、相打ちや打ち終わりを左フックで狙ってくる。攻めながらも相手のリターンに集中する井上は、さすがにそれらをかわしたが、警戒心を強めたはずである。左ジャブを多用するベーシックスタイルを核に、ディパエンをじわじわと攻めていくことにシフトした。もっとも予想された「早い回での井上のKO勝ち」を覆したのは、ディパエンの攻撃力とも言える。井上も「タイミングが読みづらかった」と認めているほどである。

 それでもいつの間にか、防御一辺倒にさせてしまうのだから、やはり“モンスター”の能力は図抜けている。「もっと相手に打たせてカウンターを狙うやり方もあったかな」と井上は言ったが、「もっと前に出て打ちたかったが、イノウエのパンチが凄すぎて、ヤバいと思って出られなかった」と挑戦者が言うとおり、である。パンチが強すぎるがゆえ、攻め手が減るという“功罪”だ。8回、長く深く突き上げるような左ストレートで吹き飛ばすようにダウンを奪った井上は、立ち上がったディパエンに左フックをヒット。中盤からの一方的に打ち続けるだけの展開も考慮して、レフェリーは止めた。海外リングだったら、もっと早くストップしていたかもしれない。

 予想外に長いラウンドを重ねたが、井上尚弥のオフェンス・ショーをたっぷりと観られたことを御の字としたい。だが、ひとつだけ気になったことだけは挙げておきたい。バンタム級転向当初にあった、ガードすらも破壊してしまいそうな爆発力はなかった。下半身を利かせて放つパワーが感じられず、“ぶち込む”ではなく“打つ”という感じの、60%程度の威力に見えた。足腰に踏ん張りが利かず、かつ拳を若干いたわったように感じたのだが……。

2年ぶり国内凱旋勝利に沸くファンにアピールする井上尚弥
2年ぶり国内凱旋勝利に沸くファンにアピールする井上尚弥

 かねてから取り沙汰されている「来春のビッグマッチ」について、試合後に大橋秀行会長があらためて語った。「ドネアとの再戦か、カシメロがどうなるかわからないが、いずれか」。WBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)は、日本時間12日に予定されていた王座防衛戦の前日計量を、体調不良を理由にキャンセル。WBOは、カシメロ・サイドがはっきりとした理由を示さない場合、王座剥奪も辞さない構えで、まだその裁定は下っていない。最有力なのはドネアとの第2戦となるが、はたして──。

「最大の目標は4団体統一ですが、交渉でごちゃごちゃするようなら、次の試合の後に、スーパーバンタム級に上がることも考えています」。井上、大橋会長は口をそろえた。バンタム級ウェイトを作るのが厳しくなっているようならば、ぜひクラスを上げてほしい。井上尚弥のベストな状態こそが、世界中のファンが求めるもののはずだ。そうして2022年は、井上尚弥自身の心が燃え上がるような相手との対戦実現を期待したい。

 井上の戦績は22戦22勝(19KO)。ディパエンは15戦12勝(11KO)3敗。

文_本間 暁
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