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2021-12-15

【ボクシング】新王者・谷口将隆が一夜明け会見。盟友・京口も驚いた、勝負を決定づけた5ラウンドの“仕掛け”

新王者・谷口は、堂々と京口と肩を並べた

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 14日、ポイントリードで迎えた11回に一気に勝負をかけてウィルフレド・メンデス(25歳=プエルトリコ)をレフェリーストップ。WBO世界ミニマム級新チャンピオンに輝いた谷口将隆(27歳=ワタナベ)が一夜明けた15日、都内の所属ジムで会見。アマチュア時代から切磋琢磨してきた同い年の親友にしてライバル、WBA世界ライトフライ級スーパーチャンピオン京口紘人、伯耆淳トレーナー、渡辺均会長が同席し、冬真っ只中に訪れた“大きな春”の悦びをかみしめた。

 満面の笑顔を浮かべたいところだが、顔が痛くて「これが精一杯」。見た目ではわからないが、この痛みの果てに勝ち取ったものこそが戦士の勲章だ。

 劇的な王座奪取直後から、「これ、夢ちゃうか?」と何度も繰り返した。あまりにも心地よい状態。現実と夢が反転したようで、「寝たらこの夢が覚めてしまうから、昨夜は一睡もしなかった」と言って爆笑を誘う。すかさず隣に座る京口から「これが現実やで!」と引き戻される。正真正銘の、立派な世界チャンピオンの誕生だ。

 10回終了時点の採点は、ジャッジ2人が6ポイント差。セコンドについた京口も「取られても3つくらい」というペース掌握ぶりだったが、「やってる側は取られたと思っちゃうので95対93くらいかと」思っていたそう。ラストシーンは「正直もう限界だったけど、メンデスを見たら弱気になってたのがわかったので行くしかないと。メンデスが1歩下がったときに足がカクンってなって、腹をスコンて打ったらハーって唸ったので。続けて左を1発当てたら心が折れたのがわかった」。疲労により、頭が真っ白でもおかしくない状態。それでも、相手の微妙な変化をしっかりと把握する。そして、迷いなく考えたことを行動に移した。伯耆トレーナーは、「行けるところで行かなかったのが谷口に欠けていた部分。それをあの大舞台でできたことが素晴らしい」と、最大級の評価を示した。

谷口は冷静に前日の試合を振り返った
谷口は冷静に前日の試合を振り返った

 この“本番”のために、ここ数戦、谷口のセコンドに入る予行演習を重ねてきた京口は、「僕からは、いつもスパーリングで言うような感じ。『こんなこともできるんちゃうか』とかそんな程度です。それよりも、インターバルで戻ってきたときの落ち着きぶりに安心した」という。そして「5ラウンドに入ったら、ジャブを使って、距離を取ってサークリング。それがハマって、明確にポイントを取れるリズムになった。それが機能したのですごいなと」感心したという。

 新チャンピオンは、「メンデスが打ち気に逸る顔をしたので。実は伯耆さんと試合前から相談していたんです。『メンデスを前に出させられたらいちばんいいな』と。最初に僕がガーっと攻めて、そこに相手が慣れてきたらきっと打ち気に逸ってくると思ったので、そのときにジャブを突けるようにすごく意識していたんです」
 2年前、ビック・サルダール(フィリピン)と対峙した世界初挑戦とは雲泥の差。あのときは、“攻めるのみ”に頭が支配され、打たれてリズムを狂わされると、よりいっそうその沼にはまりこんでしまったが、今回は明確に戦略・戦術を立てて、大舞台で冷静に実行した。試合前、「挑戦者らしく戦う」という言葉を繰り返したが、攻めるだけがチャレンジャーではない。メンデスに下がらされたのではなく、チャンピオンを呼び込んだ。焦って前に出てきたところで「カウンターを合わせる」作戦を実行し、チャンピオンをコントロールしたのだ。
“上から目線の挑戦者”。相手を飲み込むこの姿勢は、大勝負には欠かせない。ボクシングだけではない、人間力が試される部分だ。

「でも、冷静になればなるほど反省点がいっぱい出てきますね。もっと強さを追い求めていきたいですし、防衛もしたい。減量もそれなりにキツイので、無理だなと思ったら階級を上げたい」

左から渡辺会長、伯耆トレーナー、谷口、京口。新チャンピオンはスタッフとプエルトリコ陣営への感謝を繰り返した
左から渡辺会長、伯耆トレーナー、谷口、京口。新チャンピオンはスタッフとプエルトリコ陣営への感謝を繰り返した

 谷口と京口には、かねてから思い描いていたことがあった。「ふたりとも世界チャンピオンになったら、関西でダブル防衛戦をしよう」という構想だ。
「和泉(大阪府和泉市=京口の出身地)と神戸(谷口の出身地)の間、尼崎ぐらいでどうかな(笑)」と谷口。これには渡辺会長も大乗り気で「京口の指名試合とかいろいろな事情はありますが、来年の秋とか大晦日にやりたいですね」。それまでには新チャンピオンも初防衛戦をこなしているだろう。
 先輩王者・京口は「防衛となるとまた全然違う。今後谷口も、そういう何か感じるものがあるはず。内山(高志)さん、田口(良一)さんたち、先輩チャンピオンの凄さ……」。自身も世界戦7度。経験した者にしかわからない精神的圧迫、心の持ち様。特別な人たちだけの闘い──。

 挑戦者・谷口にも大きな闘いがあった。「昨日獲れなかったらほんと、終わりだったので……。プレッシャーに潰されそうだった。でも、“明日することを考えよう”って思って肩の力を抜いた。でも、世界のトップにずっといる選手たちの凄さを実感しました」

 大仕事をやってのけ、一夜にして人生を変えた。年内はしっかりと休養に充て、「年明けからゆっくり体を作っていこうと思います。試合中にも感覚的にいい発見があったので、勝ったことがすべてでしたが、内容から得られたものを次に生かしたい」と早くも貪欲な姿勢を見せている。

 京口との切磋琢磨だけでなく、ジムにはWBOアジアパシフィック・ミニマム級王者の重岡優大、銀次朗という“スーパーホープ兄弟”がいる。「あの2人は間違いなく世界チャンピオンになる」と谷口も、普段からその強さを体感している。下からの突き上げ、先輩としての意地……。真の戦いは、スタートしたばかりだ。

文&写真_本間 暁

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