14日、東京・両国国技館で行われたＷＢＯ世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦は、挑戦者１位・谷口将隆（27歳＝ワタナベ）が、チャンピオン、ウィルフレド・メンデス（25歳＝プエルトリコ）を11回１分８秒ＴＫＯで下し、悲願の世界王者となった。
写真＿菊田義久（リングサイド）、菅原 淳（スタンド）
11ラウンド。谷口の連打をダッキングで低い体勢をとってかわそうとした王者に、狙いすました左打ち下ろしを炸裂させた。大ダメージを被ってロープまで大きく後退したメンデスに、谷口は逃がすものかとばかりに襲いかかった。
左ボディアッパーの連打、左右フックの雨あられ。意識朦朧状態にありながら、本能だけで防御するメンデスは粘りを見せたものの、谷口はここで攻め手を変えて左オーバーハンド２発。顔面を大きくのけ反らせた王者を、レフェリーが救った。
勝利の瞬間、歓喜の雄叫びを上げる谷口 ダッシュしてコーナーポストに駆け上がり、雄叫びを上げて場内にアピールする新チャンピオン。同時にプロ入りしたものの、一気に世界へと駆け上がり、２階級制覇まで遂げた親友・京口紘人の陰に隠れていたその鬱憤を、すべて放出したような歓喜のパフォーマンスだ。
2016年４月にデビュー。翌年４月の日本、同年11月に東洋太平洋と２度の王座決定戦に臨んだものの、いずれも惜敗。2018年11月に13戦目でＷＢＯアジアパシフィック王座を獲得したものの、次戦でときのＷＢＯ王者ビック・サルダール（フィリピン）に挑み、判定で完敗。京口との差を過度に感じ、常にどこかに負い目を漂わせるようになっていた。
だが、元来、攻めも守りもバランスよくできるオールラウンド型。サルダール敗戦からの日本王座挑戦者決定戦、日本王座獲得、そして初防衛と、2019～今年までの３戦で、ようやく本来のボクシングを本番のリングで示せるようになった。
２回、左クロスで鮮やかにダウンを奪った谷口。「あれはバランスを崩しただけ」とメンデス 初回から、メンデスをよく観察していた。サウスポー同士の１戦は、技巧派アウトボクサーの王者を、谷口がどう攻め込んでいくかという見立てがあったが、程よい距離感を常にキープし、ときに緩やかに、ときに激しく攻め込んだかと思えば、スッと離れてサークリングを展開。右ジャブでコントロールするボクシングも披露した。２回には左オーバーハンドでダウンを奪ったものの、決して心を乱さずに、じわりじわりとメンデスを追い込んでいく。熱くなりすぎてただひたすらに攻め込んでいき、打たれればリズムが悪かろうが、さらに力を込めて追いかけていったサルダール戦とは別人のような落ち着きぶりだった。
視野も広く、雰囲気も察知。メンデスがやりたいこと、やろうとしていることが手に取るようにわかったのではなかろうか。試合全般を通じて、完全にチャンピオンを飲み込んでいた。
６ラウンドにホールディングで減点１を取られたメンデスは、流れの悪さに焦りもあったろう。だが、８、10ラウンドと終了間際に強い連打を当てて逆転を狙った姿は、王者のプライドを感じさせた。
が、９ラウンドの谷口のボディブロー攻めがまた見事だった。右ボディアッパーを決めると、王者はあからさまに逃げの一手。さらにカウンターで当てた左ボディアッパーがさらなるダメージを与えた。やられた直後のラウンドで、しっかりはっきりと前ラウンドの姿を上書きしてみせる完璧な戦い方だった。
「彼がチャンピオンになってくれて本当に嬉しい」と京口。セコンドに入り、谷口に適切な指示を送り続けた「技巧派だと思っていたメンデスのジャブを１ラウンドにもらったとき、『けっこうパンチ強いな』って思いました」。その後は距離やボディワークでメンデスの速いブローをかわしまくったディフェンス技術も大いに評価したい。これも、メンタルコントロールがしっかりしていたからこそ為せる技。
「これでようやく自信を持てました。スパーリングより強い姿をやっと見せられました、よね？」と、してやったりの表情の谷口。当初から高い技術を評価してきたが、見てきた記者にとっても実に感慨深い夜となった。
谷口の戦績は18戦15勝（10ＫＯ）３敗。メンデスの戦績は17戦16勝（６ＫＯ）２敗。
文＿本間 暁
