陸マガの箱根駅伝2022カウントダウン企画「箱根駅伝の一番星」は出場20校の注目選手を紹介。箱根駅伝で3年連続3区を走り、区間3位、2位、4位とスペシャリストの遠藤大地(帝京大4年)。2年時には3区の日本人最高記録を樹立している。今回の箱根で競技生活を終える遠藤は、最後の舞台でもフルスロットルで突き進むつもりだ。
4年目で初めて箱根の夢を見る「4年間で箱根の夢って一度も見なかったんですよ」
大学4年間で陸上競技選手としての生活にピリオドを打つ遠藤大地(4年)に、箱根駅伝ラストランに向けた心境を尋ねたときのことだ。遠藤は思いがけない言葉で切り出した。
「でも、ここに来て箱根の夢を見るようになったんです。自分でも分からないところで、(箱根のことを)すごく考えているのかなと思いました」
遠藤が大袈裟な言葉を口にしたり、オーバーに感情を現したりすることは、これまでほとんどなかった。だからこそ、遠藤がふと漏らした言葉に、胸のうちに秘めている熱いものを垣間見た気がした。
最後の箱根駅伝に向けた意気込みは行動にも現れていた。
「1日1日が最後だと思って、今季は練習に取り組んできました」
昨季はコロナ禍で練習量が極端に減り、駅伝シーズンに入ってもなかなか調子が上がらなかったが、今季はその反省を生かして、前半戦から例年以上に走り込んだ。そのおかげもあって、今秋は順調に滑り出した。
ともあれ、どんなに調子の悪いシーズンを送っていようと、箱根駅伝にはきっちり合わせ、3区で好走を披露した。
過去3回の箱根駅伝では、たびたびチームのピンチを救ってきている。1年時と3年時はいずれも8人抜きと、序盤の出遅れをリセットするゲームチェンジャーとしての働きを見せた。遠藤がシード権圏内に押し上げなければ、チームは本流に乗れないまま、後方でレースを進めていたかもしれない。
圧巻だったのは2年時。イェゴン・ヴィンセント(東京国際大3年)の影にすっかり隠れてしまったが、従来の区間記録を上回り、田澤廉(駒澤大3年)ら他校の主力をも破って、3区の日本人最高タイムを打ち立てた。
これまでの活躍ぶりを振り返れば、遠藤を“箱根3区のスペシャリスト”と呼んでも異論はないだろう。
遠藤は、最後の箱根でも、もちろん3区を希望している。
「2年生のときが一番速く走れたので、そのときの記録(1時間01分23秒)を塗り替えたい」と過去の自分越えを狙いにいく。
「先頭に付いている中継車が見えるぐらいの位置でタスキをもらえれば、そこを目指して突っ込んでいきたいと思います」
タスキを受けたらすぐにフルスロットル。その積極果敢さこそが遠藤の持ち味だ。
「遠藤は『30秒、40秒差だったら、前が誰だろうと抜ける』って言っていたので、そこをしっかり視野に入れて、やっていきたいと思っています。遠藤には、最後は先頭を走って終わってもらいたい」とは、2区希望の橋本尚斗(4年)。
橋本は、自らの2区が耐えるレースになることを予想しており、その分、遠藤には他を圧倒する走りを期待している。
「もう後悔しても、次につながることがないので、走り終わった後に『出し切った』『やり切った』と思えるように、タスキをつなぐことが一番だと思う。そう思えるように、箱根までの残りの時間、やれることを全部やっていきたいなって思っています」
もしかしたら少しは後悔を残すこともあるかもしれない。でも、その後悔をできるだけ小さなものにするために、遠藤は今回も湘南を全力で駆け抜けるつもりだ。
ブルーのサングラスにミズノの「薄底」シューズが遠藤のトレードマーク。クールな遠藤がラストも熱い走りを見せる
えんどう・だいち◎1999年4月4日、宮城県生まれ。174㎝・58kg、AB型。三本木中→古川工高(宮城)。帝京大1年時より主力として三大駅伝に出場。箱根駅伝では3年連続3区で区間2~4位、2年時には3区の日本人最高記録(1時間01分23秒)を樹立した。今季は出雲で2区5位、全日本で3区6位とチームをけん引。箱根を最後に競技を引退する。自己ベストは5000m13分55秒97(2019年)、10000m28分34秒88(18年)、ハーフ1時間03分53秒(20年)。
箱根駅伝2022完全ガイド(陸上競技マガジン1月号増刊)