14日、東京・後楽園ホールで開催された『WOWOW エキサイトマッチ30周年記念 リングサイド会議SP「黄金の中量級」in後楽園ホール』(21日夜9:00~WOWOWオンデマンドで配信開始予定)。スペシャルゲストとして参加したWBAスーパー・IBF世界バンタム級チャンピオン井上尚弥(28歳=大橋)が、イベント後のメディアへの取材で、ビッグな構想を明かした。 今月5日にジムワークを再開した井上は翌6日、かねてから親交のあるK-1WORLD GPスーパーフェザー級王者・武尊(たける、30歳)の訪問を受け、ボクシング指導を行った。
武尊といえば、長年対戦を熱望されてきた“神童”那須川天心(23歳)との“格闘技界最高峰のライバル対決”が、6月に実現することが発表されたばかり。井上も「一ファンとして、すごく楽しみな気持ちになりました」と語るように、この顔合わせは格闘技、スポーツ界を突き抜けて話題を呼んでいるカードだ。世界的評価はトップレベルにある井上だが、“ライバル”と呼べる存在との対戦は、同じ格闘家として羨むところなのだろう。
「ファンが見たいカードが決まったときの雰囲気。異様な雰囲気を醸し出す試合。そういう試合を自分も組んでいきたいですよね。(ノニト・)ドネア(フィリピン)と戦ったときは、ドネアも日本のファンに馴染みがあるのでああいう雰囲気になりましたけど。(エマヌエル・)ロドリゲス(プエルトリコ)とか(ファン・カルロス・)パヤノ(ドミニカ共和国)とか、実力があるのはボクシングファンは分かるけど」と前置きすると、意外な発言が飛び出した。
「たとえば日本人同士の戦いとか。実現に向けていきたいですよね。自分はバンタム級から下げることはできないので。自分もキャリアの後半に入るし、どこかで耳にした『5階級制覇を目指す』というコメントにも期待しつつ、自分もそこに向けて、2022年は発言していってもいいのかなと。発言するのは自由ですからね。名前を言ってないのはミソですけど(笑)」
もう、誰の頭にも思い浮かぶのはひとりしかいない。国内男子唯一の世界4階級制覇王者、井岡一翔(32歳、志成=WBO世界スーパーフライ級チャンピオン)だ。
『エキサイトマッチ』を30年に渡り支えてきたジョー小泉さん、浜田剛史さん、髙柳謙一アナウンサーと、すっかりマニアになった増田美香アナウンサーに囲まれてトークに花を咲かせる井上「自分がチャンピオンになってから、ファンの中で密かに楽しみにしてるというのは聞いてきましたし、盛り上げるのであれば、そこも選択肢としてありなのかなと。バンタム級の4団体統一も目指すし、スーパーバンタム級に上げて4階級制覇を目指すというのも、もちろんありますが」
驚き、色めき立つ報道陣を前に、時に少年のように屈託なく笑い、そうかと思えば格闘家然とした鋭い眼光になる。誰よりも井上尚弥自身が興奮している様子なのが印象的だった。
「大晦日の試合(井岡vs.福永亮次=角海老宝石)、見てましたよ。自分とはボクシングに向き合う気持ちが違うというのが率直な感想です。(井岡の)技術とかは高く評価してますけど。『見たくなければ見なくていい』という発言も……。人それぞれのボクシングに向き合う気持ちもありますが」
挑戦者との実力差を、井上も感じ取っていたのだろう。だが井岡は、福永の強打を食うリスクを避けるための最善策を取った。仕留めにいかず、打たせずにコントロールしきり、判定勝利を収めた。井岡のスタイル、考え方も認めるが、“観客に魅せる”ボクシングを大切にする自分とは違うということだ。
ミット打ちに名乗りを上げたボクシング未経験の男児に、優しく指導 先日行った本誌インタビューの際、井上はあのマニー・パッキャオ(フィリピン)の全盛期の映像を見返していると語った。「ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)との試合とか……。自分もああいう相手との戦いをしたい」──。哀願するような眼差しは、“強者との対峙”にこそ、最大のモチベーションがあると物語っていた。
近年で最大に盛り上がりながら、幻に終わったのは辰吉丈一郎vs.鬼塚勝也。「東京ドームで5億円マッチ」とも言われた対戦だ。井上尚弥vs.井岡一翔が実現すれば、これに匹敵、いや上回る国内史上最大級のビッグマッチ。4団体統一、スーパーバンタム級進出とともに、この対戦もまた、2022年の井上尚弥から目が離せない切り札となる。
文&写真_本間 暁