WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ、チャンピオンの井岡一翔(32歳=志成)対6位の福永亮次(35歳=角海老宝石)の12回戦は、31日、東京・大田区総合体育館で行われ、井岡が3-0判定で4階級目の世界タイトルの4度目の防衛に成功した。本来なら、同じリングでIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)相手に統一戦をするはずだった井岡は、挑戦者の懸命の攻めを熟練の技巧でやり過ごし、文句なしの勝利を手に入れた。福永は頑張るも、力の差ははっきりと「どんなパンチを打っても当たった感じがしなかった。ほかの人が言っていたように(井岡の)パンチは見えなかった。これが世界なんやなと思いながら戦っていました」
人生を変えてみせると誓ってこの戦いに臨んだ敗者のコメントがすべてを物語る。3人のジャッジが下した採点は2~8ポイント差。ポイント差は関係ない。12ラウンド、36分間、このタイトルマッチは井岡の掌の上で演じられ続けたと言っても差し支えないだろう。勇敢な福永の攻撃と前進にあおられ、アッパーカットや左ストレートがかすめたように見えても、井岡は常に余裕をもって対処していた。そして、いつの間に自分の距離で相手を囲い込んで、折々にシャープなブローを打ち込んだ。
「(福永の攻撃に)驚いたり、戸惑ったりすることはなかったです」
冷静に戦局を見切り、守るべきは守り、攻めるべきは攻めた。もちろん、2週間前に挑戦者に抜擢され、勇んでリングに上った福永は最初から最後まで奮闘しれいた。だが、井岡が張った大きな網の外には最後まで出られなかった。
身長170センチのサウスポー、福永は果敢にワンツーを飛ばし、右フックも打ち込んだ2ラウンド、井岡は右ストレートを軸に応戦し、ペースを奪い取る。4ラウンドには左フックを連発。さらにモーションのない右を突き刺す。福永の動きが澱み、はや、勝負のヤマは越えたかに見えた。井岡の精巧なコンビネーション、タイムリーショットが、もうすぐフィニッシュをもたらすはず。それほど、ボクシングのスケール感は違っていた。
それでも、フルラウンドの戦いになったのは、福永の見事なほどの頑張りによる。左アッパーのボディブローを突端に上下にパンチを散らしたり、井岡の打ち終わりに左ストレートを狙ったり、策を尽くして立ち向かった。カウンターを狙っているのを承知で、大胆に打って出たりもした。そんな挑戦者に攻勢点が与えられたラウンドもいくつかあったのも確か。が、いずれも井岡の築くペースメイクの根幹に届くものではなかった。
福永の果敢なアタックも、井岡の高い城壁を乗り越えることはできなかった後半戦は井岡が思うがままの戦いに 井岡演出のボクシング劇場が、ますます明瞭になったのは7ラウンドだった。井岡の右ストレートが鼻梁を横切り、福永が鼻血を流す。一瞬、気にするそぶりを見せたところを名手は見逃さない。鋭い連打をまとめた。8ラウンドには左アッパーから、右、左といわゆる逆ワンツーをフォローし、さらに右も追加する。ここぞで、着実に有効打を打ち込む井岡に、福永ははっきりと後手を踏み出す。
「福永選手の(強い)気持ちも感じました。そして、タフでした。だったら、もっと攻めさせて消耗させてみようかと思いました」
9ラウンド以降、井岡はガードを固めてのカウンター狙いに転じる。攻めて出るしか勝機がない福永は追いすがるように攻めるのだが、井岡の非情のカウンターのターゲットになる。チャンピオンは12ラウンドははっきりと無理をせず、そのままラストゴングを聞くことになる。
アンカハスの統一戦をにらんで、「リスクは避けたかった」と話した井岡の戦い方は、賛否両論かもしれない。「やっとここまでこれたんです。自分のやりたいことをやることで、ファンは喜んでくれると思います」。初めて世界王座(WBA世界ミニマム級)を射止めてからまる10年。ずっと世界のトップとして戦い抜いてきたプライドが、試合後の会見場にギラリと輝いた。
井岡は30戦28勝(15KO)2敗。福永は20戦15勝(14KO)5敗。
文◎宮崎正博 写真◎菊田義久