今月14日、2年ぶりの国内凱旋試合を両国国技館で行い、WBA6度目、IBF4度目の防衛を8回TKOで飾ったWBAスーパー・IBF世界バンタム級チャンピオン井上尚弥(28歳=大橋)。試合から約2週間経った26日、『エキサイトマッチ~世界プロボクシング2021年総集編』(明日27日夜10時からWOWOWライブで放映)にゲストコメンテーターとして収録に臨み、来たる2022年の抱負などを語った。 開局から30周年。その当初から始まった『エキサイトマッチ』は、毎週2時間、海外のトップ選手の試合を紹介するという画期的な番組で、日本の選手、ファンにとって“目指すべき場所”をはっきりと示してくれたものと言ってよい。“モンスター”井上もご多分に漏れず、そんなひとり。父・真吾トレーナーが録画したものから良い部分を抽出し、息子に注ぐ──その反復、繰り返しの中で、トップ選手たちが“基礎”をしっかりと築いた上に成り立っていることを学んだはずである。そうして、憧れの場所を手繰り寄せ、肩を並べ、さらにその最頂点を争う存在にまで及んだのが、現在の“モンスター”の立ち位置だ。
同番組がこの1年間に放送した試合の中から、さらにベスト10を決める毎年恒例の総集編。そんな珠玉の勝負を、ときにイチファンとしての目線で見つめ、またライバルとして鋭い視線を浴びせながら。様々な表情が見られて興味深い。
解説は元世界3階級制覇王者・長谷川穂積さん。WBC世界バンタム級王座を10度防衛したレジェンドも井上を大絶賛し、2022年のナオヤ・イノウエに期待したいことも語った。その軽妙なやり取りは、ぜひ明日の放送で確認していただきたい。
「来年はとにかく3試合したい」 収録後に行われた会見の話題は、春にも行われる予定のビッグマッチと、試合直後に語った「スーパーバンタム級」のこと。「バンタム級4団体統一」を目標に掲げているのはご承知のとおりだが、王者同士の統一戦実現の困難さは、これまでにも再三味わってきた。だから、「他にも選択肢がある。バンタム級には、他にも良い選手がいますから」とそこに絶対こだわるという姿勢にはない。WBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)や、WBO王座保持が決定したジョンリエル・カシメロ(フィリピン)との統一戦実現がならず苛々したり、彼らとの試合にこだわるあまり、もっとも大事な“試合自体を行えない”ということを回避するほうが先決だ。
今年は6月のラスベガスでの試合と合わせて2試合。だが、かねてから語ってきたとおり、「年3試合」が井上尚弥の希望だ。もっとも脂の乗る時期に入っているモンスターにとって、コンスタントに試合をこなしていくことこそが“トップ・オブ・ザ・トップ”への最善策。そして2022年の抱負を訊かれた彼は、やはり「年間3試合」を掲げた。
「できれば、春、夏でバンタム級4団体を統一して、来年の今頃にスーパーバンタム級へ。それがいちばん綺麗な流れですね」
バンタム級での減量は決して「楽ではない」。けれど、今はまだ「バンタムが適正階級です」ときっぱり。そして、井上尚弥らしい深い思索と持論を展開する。
「また来年! 期待しててください!」「周りの風潮で、『とりあえず階級を上げろ』というのは自分はどうかなと思うんです。ボクシングは階級制のスポーツですから適正階級で戦うのがいちばん。(マニー・)パッキャオは別。あんな選手は過去にいないですから。
自分もライトフライ級から少しずつ上げてきています。ここで1階級上げるのは慎重にやりたい。『敵がいないから上げろ』ってみんな簡単に言いますけど、そんな簡単なものじゃない。敵がバンタム級にいなくなったとしても、スーパーバンタムに上げて自分のパフォーマンスが潰されるなら上げることはしません。階級制のスポーツの難しさは、やっている本人がいちばん分かってます。ファンはスーパーバンタムのチャンピオンとの試合を観たいでしょうけれど、しっかりと体を作って上げないと意味がない。でも、来年の終わりとか、そのあたりには体は作れるかな、と思うんです」
自宅でのトレーニングはすでに再開。ジムワークは「いつ再開するか、まだ決めていません」というが、「次もバンタムの試合なので、しっかりバンタムの、自然体の練習をします」
打たせず一方的に打ちまくった先のアラン・ディパエン(タイ)戦だが、打たれたダメージはなくとも、張り詰めた心を解放する時間は充分に必要だ。心をすっかりと癒して、新たな戦いに向かうその時を、じっくりと待ちたい。
文&写真_本間 暁