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2022-04-17

【ボクシング】スペンスが3団体ウェルター級世界王座統一 非情の連打でウガスに負傷TKO勝ち

どこまでも鋭く、また多彩。スペンス(右)のショートのコンビネーションパンチが試合を支配した

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 WBAスーパー、WBC、IBFの世界ウェルター級王座統一戦12回戦は、16日(日本時間17日)、アメリカ・テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで行われ、WBC、IBFのキング、エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ=32歳)がその攻撃力を全開させた。一瞬のピンチを切り抜けた後、激しい連打でWBAスーパーチャンピオンのヨルデニス・ウガス(キューバ=35歳)を打ちまくり、10回1分44秒、右目を大きく腫れあがらせてTKO勝ちを手にした。

 いささか因縁の深い顔合わせではあった。昨年、網膜裂孔を発症し、スペンスは決まっていたアジアのレジェンド、マニー・パッキャオ(フィリピン)との世代交代の大一番を棒に振った。この大きなチャンスを譲り受けたのが、ウガスだった。キューバにいたころは北京五輪銅メダリストになるなど、アマチュアで大活躍していたウガスだが、命がけで亡命したアメリカでのプロ活動はずっと停滞したままだった。2年に及ぶ引退生活からカムバックした後、WBAに設けられるレギュラータイトルを獲得していたが、地味な存在だったのに変わりはない。だが、代役に指名されたパッキャオとの対戦に文句なしの勝利を収め、やっとスターの座を射止めた。今度のスペンス戦に勝てば、保持するベルトの数が一気に3本に増えること以上に、その後のリングキャリアがより華々しいものになる。「これまで以上、ベスト中のベストの状態でなければ互角に戦えない」という前評判の中、ウガスはできることはすべてやった。だが、力の差はいかんともしがたかった。
ウガスは劣勢のなかでもリターンのパンチに鋭さを見せた
ウガスは劣勢のなかでもリターンのパンチに鋭さを見せた

 1年半ぶりの実戦となるサウスポーのスペンスに空白の影響は感じられなかった。速い右ジャブを連発しながらプレスをかけ、左ストレート、アッパーと切れのいいパンチを打ち込んでいく。これを固いブロッキングでやり過ごすウガスは、すかさず右のリターンブローで切り返す。カリブ人の拳は27勝中12KO(5敗)というKO率に似合わず、迫力に満ち、場内に何度もどよめきが走った。

 だが、スペンスは守りも堅固。わずかな頭と上体の動き、ブロッキングでまともなヒットを許さなかった。そして3回あたりから攻撃のピッチをどんどん上げていく。しつこくさらに強烈なボディショットから、顔面へと流れるように展開するコンビネーション攻撃に、ウガスは守りの時間帯が続く。たまに印象的な右パンチでやり返しても、濃厚なスペンスの連打にすぐに飲み込まれていった。

 思わぬ波乱もあった。6回だ。ウガスの右アッパーを不用意に浴びたスペンスの口中からマウスピースがはじけ飛ぶ。一瞬、キャンバスに目をやったサウスポーに、ウガスの右が飛んだ。スペンスの足もとが大きく揺らいで、今度は自分の体がロープまではじけて飛んでいた。ウガスにとってビッグチャンスと思われたが、スペンスは冷静さを失わない。このラウンドを無難に逃げ延びると、7回から攻撃のギアはさらに上げていく。
パンチのシャワーを浴び続けたキューバ人の顔は大きく腫れ上がっていった
パンチのシャワーを浴び続けたキューバ人の顔は大きく腫れ上がっていった

 その7回、戦いの場を完全に接近戦に移したスペンスの多彩なパンチが火を噴いた。防戦に大わらわのウガスのガードの間を割って左アッパーが飛び込む。ウガスは右目を押さえて逃げる。もちろん、スペンスの追撃に容赦はなかった。終わりなき連打が次々に打ち込まれていった。

 件の右アッパーで右目が腫れあがったウガスはもはや体系的な攻撃を作る術がない。一撃カウンターに望みをかけるしかなかった。8回途中に長いドクターチェックを受け、敗色は色濃くなっていく。9回、右アッパーのボディブローでスペンスをひるませても、燃え上がる火の手を食い止めるまでには至らなかった。左のアッパー、ストレート、さらに右フックと、相手の攻撃によく耐えてはいても、ウガスは立っているのがやっとの状態に見えた。
 そして10回、スペンスの猛攻の中で、右目が完全にシャッターを下ろしたウガスに2度目のチェックが入り、ドクターの進言を受け入れたレフェリーのローレンス・コールはその頭上で両手を交差させ、試合終了を宣言した。

「(ブランクは)問題なかった。自分の“最高”を出せば、(ウガスを)倒せると思っていた。コンビネーションを強化してきたのも勝因だったと思う」。エキサイティングなTKO勝利にもスペンスの表情には余裕が見えた。「次に誰とやりたいかって? みんなが知っているじゃないか。テレンス・クロフォード。戦いたいのは彼だけだ」。ときは熟した。ずっと待ちわびたウェルター級のスーパーマッチはついに実現へと向かいそうだ。スペンスは28戦28勝(22KO)。IBF単一公認チャンピオンの時代から数えて6度目の防衛に成功している。

 2度目の防衛に失敗したウガスは「スペンスは強かった。でも、最後まで戦いたかった」と言い残してリングを去っている。

文◎宮崎正博(WOWOWオンデマンド観戦) 写真◎ゲッティイメージズ

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