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2022-06-14

【泣き笑いどすこい劇場】第9回「力士の気持ち」その1

入幕して間もないころと思われる若き日の双葉山

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2011年、「どうしてこんなことを?」と耳を疑い、目をこすりたくなるような凄惨な事件が多発しています。人間性や、人間関係が崩壊してきているんでしょうか。悲しいですね。その点、丸い土俵に青春のエネルギーをぶつけている力士たちはまだまだ純です。このところ、不祥事やトラブルが相次ぎ、「馬鹿野郎、いい加減にせえ」と怒鳴りつけたくなるときもありましたが、少なくとも彼らが垣間見せる言動は理解の範囲内。「いや、その気持ち、よくわかるよ」と肩をたたき、抱き締めたくなるようなことが多い。そんな力士たちの素直な気持ちがにじみ出たエピソードを紹介しましょう。

押し入れの角聖

力士が勝ち越したときの気持ちはおおよそ想像できる。きっと世の中はバラ色に輝き、力士になった喜びで全身が打ち震えているに違いない。その逆の負け越したときの気持ちはどうなのだろうか。

史上最多の69連勝を記録し、不生出の横綱、とまで言われた双葉山が初めて負け越したのは入門5年目、昭和6(1931)年夏場所の新十両のことだった。当時と現在では番付編成のシステムが違っているが、昭和2年春場所で初土俵を踏んで以来、双葉山は勝ち星負け星が同数の場所はあっても、黒星が白星を上回る負け越しは一度もない。

これはすごいことだ。ところが、晴れて十両に昇進した途端、3勝8敗(当時は11日制)と大きく負け越してしまった。コテンパンにのされたのだ。双葉山はこの敗因について、

「(新十両の)プレッシャーと、(対戦相手に)土俵慣れした力士が多かったため」

と自著「相撲求道録(現在は『横綱の品格』と改題し小社より発売)」の中で分析している。そして、悔しさのあまり、しばらく真っ暗な押入れの中に潜りこんだままだったという。おそらく自信も何もなくし、他人と顔を合わすのすら、嫌だったのだろう。この思いの強さがのちに双葉山を大横綱に押し上げたのに違いない。それにしても、真っ暗な押入れに潜り込んだ双葉山、もし可能ならいっぺん見てみたい気もする。

月刊『相撲』平成23年7月号掲載

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