競技歴20年超。プロ生活15年。世界3階級制覇という偉大な記録を成し遂げただけでなく、数々の熱戦、激戦を繰り広げ、日本ボクシング史に永遠に語り継がれる漢となった八重樫東(37歳)が9月1日、現役引退を発表した。決しておごることなく、ひたすら求道者然として走り続けた姿は、常に感動を呼び、そして誰からも愛された。発売中の『ボクシング・マガジン10月号』では、肌身に染み込んでくるような、引退会見での彼の発言を、そして自身による2パターンのベスト5試合選出、歴戦の思い出を掲載。
上写真=それまで身体能力を生かしたアウトボックスで戦ってきた八重樫が、“激闘型”に変貌したのは、最初に世界チャンピオンとなったポンサワン戦からだった。その思い出の後楽園ホールをバックに
リモート、オンラインによる会見は約1時間にもおよんだ。1度でも彼に接した記者は、誰もが彼の人柄にも虜になった。それは、彼を応援してきたファン同様だ。代表質問に続き、各社が次から次へと質問を投げかける。彼の口から何かを引き出したい。それだけでなく、記者たちの名残惜しさの表れだったように思う。
「代表質問でなにを訊かれるかは事前に聞いていたんですが、答えは敢えて考えないようにしました」。八重樫は後日、こう明かしてくれた。その瞬間に自然とにじみ出てくる想いを語りたかったから──。だから、みんな心をつかまれた。そして、「ありがとう」。口にせずとも、リモートだろうと、そこに集ったメディアの雰囲気は充分に伝わってきた。
「どの試合にも思い入れがあるので……」としみじみと振り返った八重樫だが、一般ファン向けの世界タイトルマッチベスト5に加え、極私的ベスト5を選出。独白というかたちで構成した。
「これ(現役生活)がなくなったら、何もなくなってしまうって思ってた。けど、なくなっても、なくならなかった」
『懸命に悔いなく』。ひとつたりとも妥協せず、その瞬間瞬間を燃やし尽くしてきた彼だからこそ──。
写真_本間 暁
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