井上尚弥(29歳=大橋)が次なるターゲットに向かってスタートを切った。WBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級チャンピオンは、28日、横浜市の大橋ジムで練習を再開し、マスコミに公開した。残る1つの世界王者、WBOチャンピオンのポール・バトラー(33歳=イギリス)との統一戦が年内実現に向けて進んでいる井上は、「ノニト・ドネア戦以上の戦いをしなければならない」とさらなる進化を誓った。 ドラマなき、いや、ドラマ以上のインパクトを持って長く語り継がれるはずのさいたまスーパーアリーナ決戦からちょうど3週間、井上はジムワークを再開した。2年半前、負傷もあって『名勝負』となった一戦の対戦相手、ノニト・ドネア(フィリピン)をわずか2ラウンド、痛快に返り討ちしても、井上の向上心に陰りは見えない。
「今回は減量もリカバリーもすごくうまくいきました。それを(次戦も)維持していかなければいけません。それにあれだけの勝ち方をしたのだから、それ以上を求められるでしょう」
まだまだやりたいこと、やれていないことをジムワークの中では感じるとも言う。だから練習をひたすら積み重ねたい。世界チャンピオンの先輩、八重樫東トレーナーがリーダーになっている体力強化プログラムももちろん継続する。
「始めて6ヵ月。次の試合が12月として1年目。はっきりと成果が出てくると思います」
力のかげんは控えめでも、モンスターの拳がずぶりとサンドバッグにめり込む この日、バトラーを抱えるプロモーション、プロべラムの公式サイトには、井上とバトラーがにらみ合う合成写真がアップされた。
「バトラーのプロモーターもやる気なんだ。正式に対戦が決まったら、気持ちはまた高まると思います」
すでに4団体統一後のスーパーバンタム級転向も公言している。新たな階級では実力ナンバーワンとも言われるスティーブン・フルトン(アメリカ=WBC・WBOチャンピオン)が井上との対戦に意欲を示し、手際のいいボクシングが光るムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン=WBAスーパー・IBFチャンピオン)も存在感を示している。ただ、その前の「残り1つ」をおざなりにするつもりなど毛頭ない。バトラー撃破、それも権威あるリング誌から全階級を通じて最強(パウンドフォーパウンド)と認められたボクサーにふさわしい勝ちっぷりで、次のステージに進みたい。
井上はこの日、マスクをしたままシャドーボクシング、サンドバッグ打ち、ミット打ちをそれぞれ2ラウンドずつ、ごく軽めにこなして練習を終了している。
文◎宮崎正博 写真◎山口裕朗