元世界3階級制覇チャンピオン八重樫東(37歳)が1日、所属する大橋ジムでリモート会見を行い、現役引退することを発表した。昨年12月23日、IBF世界ライトフライ級王者モルティ・ムザラネ(南アフリカ)に9回TKO負けを喫し、その去就が注目されてきたが、ついに決断することとなった。
上写真=リモート会見より。後輩・中垣から花束を贈られて満面の八重樫スマイル
9月1日は、八重樫にとって特別な日。2004年のこの日が、大橋ジムに入門した“始まり”だったから。以来16年、「山あり谷あり」のプロボクサー生活だったが、八重樫は「完走した」と万感を込めて表現した。プロ通算戦績は35戦28勝(16KO)7敗。獲得したのはOPBF東洋太平洋、日本ミニマム級王座。そして、WBA世界ミニマム級、WBC世界フライ級、IBF世界ライトフライ級王座。
「ボクシング人生を全うしたい」──。八重樫が常々語ってきた言葉。「体力的には限界を感じたわけではない」と言い切るが、「ボクシングの師、人生の師」大橋秀行会長に引退勧告を受け、最終的には進退を自身に預けられての決断となった。
「ボクサーとして人間として、教えられることがたくさんあった。井上尚弥をはじめ、後輩たちも彼の背中を見て、学ぶものもたくさんある。これからは“第2の八重樫”をどんどん出していきたい」と大橋会長。松本好二トレーナーは、「世界チャンピオンになる前のケガの連続を乗り越えたところに、彼の生きざまがある。本当によく諦めなかった。最初から最後まで、彼のトレーナーとして全うできて、“冥利”に尽きる」と、15年のプロボクサー生活を労った。
ジムや応援してくれた方々への感謝の言葉を何度も表した八重樫は、「誇りに思うことは、世界チャンピオンになったことでなく、負けても負けても諦めずに立ち上がったこと。ボクシングでなくても、何でも立ち上がることが大事。それが伝わってくれていたら」と、ファンへのメッセージを残した。
経営する飲食店、運送業に加え、すでにテレビ解説者としてもスタートし、活躍の場を広げているが、先ごろ鮮烈にプロデビューを果たした中垣龍汰朗のチーフトレーナー就任、大橋ジムトレーナーとして後輩たちを指導していくことも発表された。さらには、パーソナルトレーナーとしても動き出す計画があるという。
「これまでの僕は、ボクシングに育てられ大きくしてもらった。これからは恩返しをしていきたい。ボクシングに人生を豊かにしてもらったので、これからの人生もよりよいものになるように、ボクシングに携わりたい」
引退を決意してからも、八重樫は変わりなくトレーニングを続けてきた。そして、それはこれからも「変わらず」だという。
座右の銘──「懸命に悔いなく」を実践してきた不屈の男とボクシングは、これからも相思相愛を貫いてゆくはずである。
文_本間 暁
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