阿炎(送り出し)照ノ富士
夏場所後はコロナ禍以降、初めて出稽古が解禁され、活気が徐々に戻ってきた。髙安は精力的に各部屋へ出向いて、関取衆と肌を合わせたが、番付発表直後に新型コロナ陽性となり、その4日後に部屋の若い衆からも陽性者が出たため、田子ノ浦部屋の力士は全員休場となった。ただ、他の部屋から陽性者が出なかったのは幸いだった。
名古屋場所の優勝争いは当然、一人横綱の照ノ富士が中心。大関以下、平幕上位まで力の差がないので、照ノ富士が崩れれば大混戦となることは必至で、初日の横綱の相撲に注目が集まった。
照ノ富士の初日の相手は小結の阿炎。苦手の押し相撲だ。優勝した先場所も初日に突き押しの大栄翔に敗れて波に乗れなかったが、今場所はどうか。
立ち合い、阿炎はいつものようにモロ手突き。横綱の上体を起こそうとするが、照ノ富士も左足から踏み込んで一歩も下がらない。押せないとみた阿炎が引くと、照ノ富士が下から押し上げて一気に前進。土俵に詰まった阿炎が右から突き落として回り込むと、前のめりになった照ノ富士は体勢を立て直すことができず、阿炎に送り出された。
悔しそうに唇をかむ照ノ富士。廻しを取らずに慌てて前に出てしまった。勝ち急いだ照ノ富士はリモート取材に応じなかったが、先場所は押されて初日に負けているだけに、それより状態はいいと思える。何より立ち合いが先場所の前半戦よりよかった。
殊勲の阿炎は「相撲はよく覚えてないんですけど、思い切り取れたと思います。これからも思い切り取っていきたい」と興奮気味。
初日は次期大関の期待が懸かる若隆景と大栄翔の両関脇がともに黒星。大関陣は正代、貴景勝が敗れて、勝ったのは御嶽海だけ。1横綱、2大関、2関脇と上位6人中5人が敗れる波乱のスタートとなった。
いつも初日に当たらない優勝予想をしているが、ピンとくる力士もなく、負け方の悪くなかった照ノ富士が筆頭かなと思う。
文=山口亜土