元WBA、IBF世界ミドル級チャンピオン、ダニエル・ジェイコブスこそが、現代のリングに生きる最大の“奇跡”に違いない。きわめて有望な新鋭として売り出されながら、初の世界王座挑戦は惨敗。ほどなく、骨肉腫に冒されていることが判明する。誰もが再起不能と考えたが、ジェイコブス本人だけは、自分の可能性を信じ続けた。ボクシング・マガジン8月号では、その奇跡の軌跡を追う。
上写真=ジェイコブスは決してあきらめなかった
まさか、こんな運命が待ち受けていようとは、ジェイコブス本人も考えもしなかったろう。トップアマチュアからプロに転向。スピードに乗せた切れ味鋭いパンチでKOの山を築いて、“ゴールデン・チャイルド”と呼ばれた。だが、まさかのトラブルに見舞われる。
世界初挑戦に敗れた翌年、脊椎に骨肉腫があるのが発覚する。急ぎ、治療を受けたが、動くこともままならず、車椅子での生活を余儀なくされたのだ。
まだ、24歳。しかし、関係者もファンも、リングに帰ってくるとは思わなかった。ジェイコブス本人をの除いては。1%だって回復の可能性があるならば、それにかけてみたい。病床にあって、彼はずっと考えていた。そう、ジェイコブスの人生は、彼ひとりのものでしかないのだ。
2度とボクシングはできない。医師のそんな宣告にも関わらず、ジェイコブスはカムバックのためのリハビリに取り組んだ。厳しい日々だった。だが、ジェイコブスはやり遂げる。1年半後、彼の姿は再びリングの上にあった。
今も後遺症はある。だが、ジェイコブスの実力は別の次元にまで上り詰めていった。キャリア序盤のスピード、パンチの切れに、丁寧なテクニック、厚みのある試合管理術を身につけた。
趙強豪ゲンナディ・ゴロフキン、さらにサウル・アルバレスには敗れたものの、クロスファイトに持ち込んで、評価を上げた。ミドル級からスーパーミドル級に転向しても、トップクラスの実力者としての地位は揺るがない。
奇跡のカムバックを遂げたダニエル・ジェイコブスには、“ミラクルマン”というニックネームがつけられた。もちろん、だれひとりとして異議を唱える者などいない。
写真◎ゲッティ イメージズ
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